第5回 国立 花咲き誇る国立のお菓子たち
2007年 月 日発売号
 国立駅から南にのびる幅44メートルの大学通りは、春はピンクに秋には金色に染まるように、桜といちょうの樹が交互に植えられているそうですが、緑一色の五月は、赤や黄、青、色とりどりの花々が黒ずんだ大木の根元にもその奥の家々の玄関にも、いたる所に咲き誇っています。
ふりかえると、国立駅は工事中で、シンボルだったあの三角屋根の駅舎はもうありません。
 5分で一橋大学のキャンパスです。時計塔のある図書館の前の美しい庭園を、学生たちがにぎやかに行き交っています。
 歩道に埋め込まれた〈駅から700メートル〉のパネルを越えたあたり、由緒のある民家を改造した「レ・アントルメ国立」の店内も、色とりどりのお菓子であふれるばかりです。
 店の前のテラスで撮影していると、通りがかりの紳士から声をかけられました。紳士は一橋大のOBで、20年ぶりに母校のキャンパスを訪ねた帰りでした。
「東大は官僚の養成校だが、一橋は反官僚でね。OBには石原慎太郎さん、田中康夫さん、トヨタの奥田さん・・・」と話は尽きません。青春の血が蘇ったかのように。
 オーナー・パテシェの?澤(えびさわ)信次さんの青春は、一途に菓子職人を目指し、20才のころ渡仏。その後、東京青山のフランス人の店で修行。「朝6時から夜12時まで働らきました。パテシェなどという言葉もなく、ケーキ屋さんでした。しかし、ぼくにはケーキが宝石のように見えました」。
「毎日現場でお菓子を作っていて思うことは、このお菓子たちが、どんな風に食べていただけるのか。子供たちや家族の楽しそうな顔が浮かびます。お菓子は、非現実的な可愛い空間を作ることだと思っています」
 紳士は色とりどりのお菓子を眺めて、「いやあ、今度、妻と来ることにしよう」と言って帰っていきました。

FOOD
レ・アントルメ国立
東京都国立市東2-25-50 tel:042-574-0205水曜休 
店の名前は、『国立のお菓子たち』という意味とのこと。フレジェ(いちごのショートケーキ)400円、ニューヨーク・チーズケーキ360円、モンブラン450円。ヴィエノワズリー(洋菓子店のパン)フランスパン150円と300円、クロワッサン150円など。

SPOT
国立大学法人一橋大学
東京都国立市中2-1-11に大学本部を持つ。(明治8年)商法講習所として創立され、1920年東京商科大学、1949年一橋大学となる。「キャプテンオブインダストリー」をモットーとし、多くの経済人を輩出した。竹中平蔵や太田弘子などはアメリカ型グローバリゼーションを進めた。伊東忠太設計の兼松講堂、東本部、および旧門衛所が国登録有形文化財。

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