第2回 東京・谷中 吉田屋酒店+柏餅「新緑の谷中で柏餅」
2007年4月23日発売号
 たびたび訪れていると、谷中は一つの小さな島、または小さな都市国家のように思えてきます。東はJRの線路を城壁として、墓地を数々のお寺が取り囲み、その間を商店や庶民の暮らしが埋めている。北に日暮里、南に根津、西に千駄木という三つの港ならぬ出入り口を持ち、島の中はレトロな独特の文化を守っている・・・。
JR日暮里駅北口を出て、すぐに石段を登ると谷中墓地です。4月初めには満開の桜の白いトンネルだった参詣路が、いまは若々しい葉桜の新緑のトンネルに代わりました。カメラを持った外国人が目立ちます。ゆっくり満歩で徳川慶喜の墓を訪れるも良し、迷子になるのもまた楽しい。
 墓地を抜け、左へ行けば言問通りにぶつかります。下町風俗資料館付設展示場(通称吉田屋酒店)の角を右に曲がってすぐ、ひときわレトロな店のガラス戸越しに、美味しそうな柏餅を見かけました。
 思わず戸を開けると、売り場のとなりに5つほどテーブルとイス。ここまで吉田屋見学と迷子も含めて小1時間。休憩にはまだ早すぎますが、一息入れることにしましょう。
「喜久月」は大正6年創業、80年の歴史のある老舗です。日ごろの疑問を3代目の青山和夫さんに聞いてみました。
「桜餅は葉の香りと塩が利いておいしさを増しますが、柏は匂いもなく、葉は堅くて食べられない。どうして柏の葉を使うんですか?」
「もとは乾燥させた葉を、煮てもどして使いました。強い香りが出て、手がシブで紫色に染まったものです」かつては保存の決め手だった匂いとシブを、いまは嫌う人が多くなったようです。「いまは茹でた葉を使います」
 5月5日の端午の節句をチマキや柏餅で祝うのは16世紀頃からだといいます。子供たちに若葉のような活力を、という願いだけはいつの時代も変わらないのでしょう。

写真大 喜久月の柏餅は「みそあん」に特にこだわっているという。
写真小左 谷中墓地の桜の道
写真小右 吉田屋酒店の店内

FOOD 「喜久月」
東京都台東区谷中6-1-3 tel:03-3821-4192(火曜休)
柏餅は「みそあん」と「こしあん」の2種。いずれも1コ、231円。お店で食べると抹 茶が315円。ほかに「あお梅」「ゆず餅」(いずれも1コ126円)など。
SPOT 台東区立下町風俗資料館付設展示場(通称吉田屋)
台東区上野桜木2ー10-6
江戸時代の商家の建築様式を伝え、明治期の谷中茶屋町付近のようすをうかわせる。見学は無料 月曜休 月曜祝日の場合は翌日休

オリンパス E‐1 ズイコーデジタル 14-54ミリ

close
mail ishiguro kenji