第252回 【コシヒカリの憂鬱 】
4月10日号
  平成29年産米の食味ランキングで、28年間〈特A〉にランクされていた新潟・魚沼産コシヒカリが〈A〉に降格したニュースは、各マスコミでも話題となった。(一財)日本穀物検定協会が、訓練した専門の評価員「食味評価エキスパートパネル」20名により、白飯の「外観・香り・味・粘り・硬さ・総合評価」の6項目について「複数産地コシヒカリのブレンド」を基準に、ランクづけしている結果だ。ランキングの対象は151産地品種銘柄である。
 基準米のコシヒカリは、日本全国各地で生産されていて、同じ新潟のコシヒカリでも上越、下越、佐渡産は〈特A〉だ。福島の会津、浜通、茨城の県北、福井産なども〈特A〉である。ほかに〈A〉も〈A'〉もある。
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 3月末、モリカケ問題がマスコミを賑わす中、「TPPのことを書かない」と、財務大臣が新聞を非難したが、実は載っていた、と逆襲された。TPPはともかく、今もっと大事なこと、今年4月1日に廃止された『主要作物種子法』について新聞やテレビが大きくとりあげないのはなぜだろうか。米・麦などの種子を守る法律の廃止は、種子の生産に民間企業の参入を促す狙いがあるというのだが・・・。
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 2011年2月、イラク戦争が終わったとき、イラクの農業は壊滅状態だった。8年の間爆撃にさらされた土地は極度に荒廃した。イラクが誇りにしていた、1万年もの間20万種の小麦の種子を保存する種子バンクはすでに空爆で跡形もなくなっていた。
 そのとき、救いの手をさしのべたのは、モンサントなどの多国籍企業だった。〈未来の種子〉の無料配布である。
 1年後、農民は大量の収穫に驚喜する。
 農民は、この種子を受け取るときに同意書にサインしていた。その内容は、
1)自分の農家で穫れた種子を翌年使用することは禁止。2)毎年、種子は必ずモンサント社から購入。3)農薬も同じ。4)毎年ライセンス料をモンサント社に支払う。5)トラブルが起きた際はその内容を他者に漏洩しない。6)契約後3年は、モンサント社の私設警察による農場立ち入りを許可する。であった。
 イラクの農民は、〈未来の種子〉が遺伝子組み換え種子(GM種子)で、知的財産権を持っていることを知る。今後20年間、毎年、種子料とライセンス料の請求書を受け取ることになったのだ。
 収穫された小麦は、彼らの口には入らなかった。すべて欧米用に改良された輸出用の小麦だった。多国籍企業は、無料の広い土地と、とりわけ安い労働力を手に入れたのだ。  同じことはアメリカ国内でも、シカゴでも、インドの綿花栽培でも起こっている。(堤未果「(株)貧困大国アメリカ」(岩波書店)を参考)
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 今年初めて〈特A〉を獲得したのは埼玉・県東産の「彩のきずな」、高知・県北産の「にこまる」、佐賀の「夢しずく」の3銘柄。「彩のきずな」と「にこまる」は初登場である。
 来年、初登場の永田町産「もんさんと」が〈特A〉を獲得する確率は極めて高い。なぜならGM種子は、審査員の好みに組み替えることが出来るからだ。さらに近い将来、コシヒカリに変わって、審査の基準米になるかも知れない。「青天の霹靂」(青森・津軽産の〈特A〉)などと笑ってはいられない。「だて正夢」(宮城産の〈特A〉)ならぬ、「GMの悪夢」になってしまいそうだ。

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「兵舎内での食事 再現 昭和初年、アルミ製の食器に盛られたものは、麦飯・カツレツ・ゆでキャベツ・豆腐汁・番茶」兵士にとっては、それまで食べたこともないおいしいものだったかも知れません。と注釈が付いている。(国立歴史民族博物館にて)米は日本の食文化のシンボルだった。

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