第248回 【 南へ! 】
12月10日号
  沖縄へ行かねばならぬ。沖縄を撮らねばならぬ

 毎年、新年の挨拶にかえて、沖縄の話を披露してきたのですが、今回は1ヶ月を待ちきれずに、最近刊行の3冊の本を紹介したいのです。沖縄本島と八重山諸島と南北大東島、いずれも時間をかけて取材した写真集です。
 まず、豊里友行さんの「南風の根」。ふぇーぬにぃー、と仮名が振ってあります。出典は「おもろそうし」で、「風の根」は、風の吹いてくる源のことだそうです。「島には、絶えることのない風がある。」と豊里さんは書きます。物質文明が闊歩して、次々と変貌する沖縄、琉球から受け継がれてきた精神文化も痩せ細る沖縄に生きて、豊かさとは何か、国家とは何か。幸せとは何か。それは、私の写真家としての生涯をかけた問いである、と豊里さんは言い切るのです。たとえ現代社会が人間さえ消費しようとしても、この島の南風の根は確かに私たちの血に受け継がれている、と。(以上、あとがきからの要約です。)那覇市の高層マンションが、小さな模型のような亀甲墓に覆い被さる写真が象徴的です。豊里さんは1976年、沖縄市生まれ。今年の「さがみはら写真新人賞を受賞しました。
 「南風の根」は、ほとんど沖縄本島の写真ですが、飯島幸永さんの「暖流」は、八重山諸島へ本土から通っての撮影です。「思いは島の暮らしぶりを中心に、〈過去と現在〉と言う時間軸でとらえて映像化することである」と、40年前に撮った島人との再会を大切に取材。過酷な歴史を生き抜いてきた男たち女たちのクローズアップは迫力があります。飯島さんは、1942年東京生まれ。6年前に北国の女性をテーマに「寒流」を上梓しています。
 3冊目は、カラーでやや小ぶりな石引まさのりさんの「うふあがり島」。〈うふ〉は大きい、〈あがり〉は東。大東島の名前の由来だそうです。大東諸島は、南・北大東島のほかにもう一つ沖大東島があり、無人で米軍の射爆場になっています。
 写真集をひらくと、地図と島の俯瞰写真、着陸した小型機、沸き立つ雲とダイトーブルーと呼ばれる海の青が迎えてくれる。しかし、激しすぎる荒波は、怒っているようでもあり、よそ者を拒否しているようでもある・・・。
 写真は静かに島の空気を伝えていきます。街のたたずまいがアメリカの西部劇の匂いがするのは、ここが人が住み始めて約百年の島だからでしょうか。八丈島の開拓民によって開かれた歴史を、模型のような小さな亀甲墓に取り囲まれている本土風の墓がある写真が、語っています。
 
 
写真上 「うふあがり島」石引まさのり著(ボーダーインク刊)(1月発売 予価1800円+税)
写真中 「南風の根−沖縄1995-2017−」豊里友行著(沖縄書房刊)4800円+税
写真下 「暖流−八重山諸島につなぐ命」飯島幸永著(彩流社刊)6800円+税

オリンパスOM-D E-M1-MaekU  M.zuiko Digital 14-42mm F3.5-5.6
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