第243回 【 アルチンボルドの楽しみ方 】
7月10日号
  アルチンボルドって、聞き慣れない変な名前ですが、意外に日本人に身近に親しまれている画家なんです。気がつけば、筆者がいま使っているノートの表紙が彼の代表作[夏」、裏表紙が[冬]でした! 何しろ、パリのルーブル美術館では、モナリザの次に人気のある絵なんだそうです。
 代表作「四季」と「四大元素」の8点が、関連の作品といっしょに世界中から集められて、一挙に見ることができるのは希有のことだそうです。この際、充分に楽しみましょう。


写真1)[庭師/野菜]
1587〜90年ごろの作品。クレモナ私立美術館蔵。スマホを逆さにしてみてください。

 写真1を見てください。ボールに入った野菜がたっぷり。玉ねぎ、大根、トマトなど、美味しそうですが、ここでスマホを逆さにして見てください。
 あれ、あれ?
 なんと酔狂な! 遊び心満載の上下絵ですが、内容は実に真面目。「自然や人工の様々な形態を知的かつ論理的に組み合わせる」ことで、完成した絵なんです。


写真1)[庭師/野菜]
1587〜90年ごろの作品。クレモナ私立美術館蔵。スマホを逆さにしてみてください。

 代表作「四季」の連作も寄せ絵です。「春」は約80種の明るい花々を寄せて描かれ、「夏」は野菜と果物、「秋は」は豊穣のブドウを中心に胴体はワイン樽の木の板。
 そして写真2の「冬」は、コブの多い柳の木の切り株で頭部を、そのまわりにツタの葉、唇はキノコ、口ヒゲはみどりのコケ。何とも暗い、老人の姿のように見えます。
 青春、朱夏、白秋、玄冬と、人生を四季になぞらえる東洋の考え方が、16世紀のヨーロッパにあったのか、などと考えてしまいます。
 ところがこの絵は、即位前の神聖ローマ皇帝マクシミリアンU世の肖像画で、新年の贈り物として捧げられたものでした。頭の枯れ枝は王冠に見立てられ、藁のマントの編み目には頭文字Mが織り込まれていて、皇帝はたいへんに喜ばれたそうです。手の込んだ忖度絵画だったわけです。
  寄せ絵はもちろん日本にもあります。浮世絵の歌川国芳は、自由奔放・奇想天外なアイデアで時の権力をからかったりして、 取り調べを受けることも度々だったそうです。


写真3)歌川国芳「人かたまって人になる」 1847年ごろ

 会場の一角に、あなたの顔を解析して、200種の野菜と果物で〈あなただけの寄せ絵の肖像画〉を作ってくれるアルチンボルドメーカーが設置されていますから試してみてください。いま、政治家の誰かの寄せ絵なら、札束や領収書で出来あがるかも知れませんね。

【アルチンボルド展】上野・国立西洋美術館 9月24日まで
(月曜休館、ただし7月17日、8月14日、9月18日の月曜は開館、7月18日(火)は休館)
観覧料:一般1600円、大学生1200円、高校生800円、中学生無料 問い合わせ03−5777−8600

オリンパスOM-D E-M1-MaekU  M.zuiko Digital 14-42mm F3.5-5.6
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