第240回 伝統か? 統合か?【フュージョン料理の真実】
4月10日号
三田健義総料理長。Shiny Owlの店頭で。

  三田健義さんは、イタリアレストランのシェフの時代から、なかなか納得できない疑問を持っていた。
 世界各国の料理を合わせたフュージョン料理が台頭していた。それは無国籍料理とも多国籍料理とも呼ばれるものだった。
 例えば日本でもおなじみのカルパッチョ。もとは赤肉を好んだイタリアの画家カルパッチョにちなんで、赤肉に白いチーズをトッピングした料理だが、日本では魚のお刺身を混ぜて使う。これはイタリア人にとっては違和感がある。アメリカでアボカドを使った「カリフォルニアロール」が寿司屋に登場したときの日本人が抱いた違和感と同じだ。こんなものはカルパッチョでも寿司でもない、と。
「世界文化の融合というが、各民族固有の食文化を壊してしまっていいのだろうか? 」三田さんの疑問はなかなか解けなかった。
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 三田さんは15才の時、近所に住んでいたスコットランドの青年の縁で、エジンバラへ留学する。19才まで、多感な時期に、白人世界で生活する東洋系の、否応なしに文化が入り交じる強い違和感・・・・・・。
 まず主食が米からジャガイモに変わった。これは体質が変わることでもあった。日本へ戻った三田さんは、イタリアレストランで働き始める。日本のイタリア料理店のさきがけで、あの奇蹟のスパゲティのアントニオ・カンチェミ直伝で4年半料理を教わった。その間に3ヶ月間、イタリアへ研修にも行かせてもらった。
 アントニオの店を巣立ってから、主に東京のレストランで副料理長、料理長としてキャリアを積む。
 その間、約20年の間に世界はグローバル化し、ヨーロッパではEUが誕生した。料理の融合も進み、カルパッチョはイタリアでも魚を使うようになった。カリフォルニアロールを注文するのは、いまは日本人だ。
 2015年10月、39才になった三田さんは、思春期を過ごしたスコットランドへの旅に出る。約1ヶ月、エジンバラの3軒のレストランで研修、ヨーロッパのフュージョン料理のスタイルを勉強した。
 イギリスはEU離脱を問う国民投票をめぐって騒然としていた。スコットランドは残留票が多かったが、「労働者は離脱に賛成だったでしょう」と三田さんは言う。より安い賃金で働くEU域内からの流入者が彼らを脅かしていたから。研修のレストランの従業員の80%はポーランド人だった。
 4月、いよいよイギリスの離脱交渉が本格化する。5月にはフランスの大統領の決戦選挙の予定だ。
 理想の統合をめざしたEUは崩壊の危機にある。
 が、食の世界では、IBMのAIシェフ・ワトソンが、世界中の食材を組み合わせて作る、奇妙でおいしい料理のレシピの発表を始めた。
 食文化のフュージョン(融合)はこれからのような気がする。


「初カツオのカルパッチョ―赤パプリカと人参のスープ」1200円。

ほかに、ランチは肉・魚・豆類・卵・乳製品・海藻・野菜・油脂を1回の食事で食べる「9品目のプレート」1500円など。すべてヘルシーなフュージョン料理だ。(Shiny Owl 渋谷区富ヶ谷1-35-23 tel. 03-6772-4385)

オリンパスOM-D E-M1 Mark U M.zuiko ED 12-40mm F2.8

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