第239回 イギリス料理を食べに行く 【不味いか? おいしいか? フィッシュ&チップス】
3月10日号
  世界中の男たちの最高の幸せは、アメリカの家に住み、日本人の女性を妻として、フランス料理を食べること。その反対、最悪の不幸は、日本の家屋に住み、アメリカの女と結婚し、毎日イギリス料理を食べること、だそうである。
 なかなかよくできたジョークだ、とロンドン帰りの人はにやり笑ってうなずく。
 確かにイギリス旅行の記憶の中で、〈おいしい経験〉は、あまりない。朝は焦げた食パンと脂っこいソーセージ、街歩きの途中で有名なアフタヌーンティを試してみると、紅茶とスコーンでもうお腹がいっぱいになってしまう・・・・。ディナーはイタリア人経営のイタリア料理の店を見つけたが、?X▲▽★?である。
 イギリス2日目、何を食べたらいいか絶望していると、目にとまったのはカフェの店頭看板の〈Fish & Chips〉の文字と写真。ものは試しで食べてみる。悪くない。値段も適当。以後、ランチの定番となった。

 イギリス料理はなぜ不味いか? 一説には、ジェントルマンは食べものに文句を言わない、うまい不味いと騒ぐのは下層階級のやることで、質素な食事を静かにとることこそ紳士の誇りである、という気風が料理の進歩を妨げたという。武士は食わねど高楊枝、みたいなことなのだろうか。
 18世紀中頃から、イギリスから起こった産業革命は世界を変えた。労働者は1日20時間働き、食事を作る暇も無かった。そのころ、ロンドンの下町のジョセフ・マリンの店で、タラをころもで包んで揚げたものに、ポテトチップスを添えたものが売り出され、労働者たちは新聞紙に包んで買って帰り、ほくほくと温かい食事をすることが出来た。
 フィッシュ&チップスは、すぐに食べられて、安くて栄養もあり、何よりおいしい食べものとして、国民的ソウルフードとなった。

 六本木、ミッドタウンの前のビルの1階、イギリスの旗と〈Fish & Chips〉のディスプレイを見つけた。チーフシェフ フィリップ・レイサイドさんは、スコットランド出身で、タラとポテトを揚げつづけて14年、「イギリス国際フィッシュ&チップス協会」のコックとして、日本の(株)マリーンズの招きで、同社のチーフシェフとなった。来日3年半、本場の味とレシピを守っている。タラとポテトは日本産、植物油を使い、ソースなどはイギリスから直輸入だという。
 さて、産業革命で世界を変えたイギリスは、1979年首相となったM・サッチャーがグローバル経済で世界を主導した。労働者の賃金は低下し、格差は広がった。2016年、イギリスはEU離脱を決めて、今度はグローバリゼーション終熄の先がけとなった。アメリカはあとにつづいてTPPを離脱した。
 3月、いよいよEU離脱交渉が始まるという。



【大英自然史博物館展】(2017年3月18日〜6月11日、国立科学博物館(台東区上野公園)
問い合わせtel:03−5777−8660

写真上 チーフシェフ フィリップ・レイサイドさん(34才)。日本人の女性と結婚して、まもなく赤ちゃんが誕生する。
写真下 フッシュ&チップス ラージ(大)1620円、レギュラー(中)1404円、フィンガー(小)1242円、ほかにサーモンセット864円、チキンセット864円など。(マリーンズ 03―5413―6851)

オリンパスOM-D E-M1 Mark U M.zuiko ED 12-40mm F2.8
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