第238回 【春を観に行く ティツィアーノとヴェネツィア展と恵比寿映像祭】
2月10日号
  冷たい風に押されて駆け込むように都美術館「ティツィアーノとヴェネツィア展」へ。入り口の大きなヴェネツィアの航空写真が、一気に異郷へ連れて行ってくれる。ヴェネツィアの光は美しく、影が明るく清らかで、ものをすっぽりと包む。
 ゲーテも「イタリア紀行」の中で、「真昼の陽光を浴びて、潟の上を舟で渡りながら、(中略)ヴェネチャ派の最も優れた、最も鮮やかな絵を見る思いがした。」と書いている。(同展カタログより)
 「フローラ」の前に立つ。清楚な気品を甘美な色彩が包んでいる。
 あっと思わず声を上げた。絵を包んでいたエアーがふわりとぼくの方にやってくる。春だ。ふくよかな春一番だ。
 毎年、寒風の中で何かがうごめき、たった今から春だ! と感じる瞬間があるのだ。・・・いま、ぼくは春を観た。
 フローラ、1515年ごろ、ティツィアーノ20才代の作品だそうである。以下、細野喜代さんの解説を要約してお伝えする。
「フローラは花の女神で、ニンフのクロリスが春に吹く穏やかな西風の神ゼフュロスの花嫁となって変身した姿である」
 モデルの女性は誰なのか。当時のヴェネツィアのフローラと言う名の高級娼婦など、さまざまな議論があったが、細野さんは研究の結果、結婚式をひかえた許嫁の肖像であろう、と推測する。
 その理由1)手に持っている春の花々は、愛や結婚の意味がある。右手の薬指に指輪をしている。2)白い高級下着カミ―チャを着ている。適齢期の女性は潟や胸元を出してなだらかな曲線を強調し、豊満な肉体を誇示している。ふっくらと柔らかく、体温さえ感じさせて、思わず触れてみたくなる。3)赤と白の衣装は当時の花嫁の衣装。白は貞節、赤は情熱と高貴。4)片方の乳房を出して快楽を、隠している方は貞節を表す。5)腹の上で、指でハサミの形を作っているのは、結婚によって処女の帯が切られることを意味している。 成婚後は、新婚夫婦の寝室におかれて、近くで鑑賞された。若い女性がこのような姿を見せるのは夫だけであり、新郎は、絵を見て、官能的な女性が身に纏っている最後の1枚の肌着を自分が取りのくことを想像していたのではなかろうか。(同展カタログより)
 同展は日伊国交樹立150周年記念として開催れている。


 恵比寿では、写真美術館総合開館20周年記念として「第9回恵比寿映像祭―マルチプルな未来―が開催される。写真も動画も映画も、みな映像のはずだが、あえて映像と言うのは何なのか。18カ国93組が繰り広げる多彩なコンテンツが答えをくれるだろうか。

写真 ティツィアーノに代表されるヴェネツィア派の絵画は、フランス印象派にも影響を与えた。

【ティツィアーノとヴェネツィア派展】
東京都美術館(東京・上野公園内)4月2日まで。観覧料1600円、大学・専門学校生1300円、高校生800円、65才以上1000円。
問い合わせtel:03−5777−8600

【第9回恵比寿映像祭】
会場:東京都写真美術館、日仏会館、ザ・ガーデンルーム、恵比寿ガーデンプレイス。2月10日〜2月26日まで(15日間:月曜休み)観覧無料(上映、ライヴなど定員制プログラムは有料)
問い合わせtel:03−3280−0099

オリンパスOM-D E-M1 Mark U M.zuiko ED 12-40mm F2.8
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