第224回 【 いまこそ歌え! クリスマス キャロル 】
12月10日号
 1843年にディケンズが書き、ベストセラーになって以来、何度も映画化された「クリスマス キャロル」。小学生のころ課外授業で見せられて、怖い思いをしたことを覚えておられる方も多いだろう。こんな映画を子供に見せてどうする! とクレームをつけた親もいた。そう、確かに、子供でなく大人こそ読むべき、観るべき作品だと思う。
oooo
 「メリークリスマス!」と声をかけても返事もしない。険しい顔で、「クリスマスよりお金が大事」というスクルージは、ロンドンの金融業、いまで言うヤミ金の経営者だ。
 金持ちのくせに一切の募金に応じない。それどころか、クリスマスイヴであろうがなかろうが、返済期限に払えない客はすぐに告発して逮捕させ、「監獄はそのためにある」と言い放つ。
 たった一人の甥のクリスマス・ディナーの招待も断ってきた。助手のクラリットには、1年に1日だけのクリスマス休暇を取るなら給料を差し引くと告げる、ブラック企業的強欲さ。

●幽霊出現―過去
 さて、クリスマス・イヴに一人で帰宅したスクルージを3人の幽霊が次々訪れる。
 第1の幽霊はスクルージを彼自身の過去へ連れて行く。
 銀行へ勤め、冷酷な融資係として敏腕を発揮した青年時代。恋人は「何よりも大切なことは愛する人と過ごすこと。金しか愛するものがないなんて」と去って行く。その恋人を引き留めることもしない過去の自分自身に、スクルージは「何をしているんだ! 追え!」と怒鳴りつけるのだ。

●第2の幽霊―現在
 次の幽霊は現在のクリスマス・イヴを案内する。
 クラリットの家では、粗末な服の奥さんと子供たちが料理に奮闘中。クラリットが足の悪い末っ子を肩に乗せて来てテーブルにつき、焼き上がった七面鳥ならぬ鵞鳥にナイフが入れられるときには、家中が拍手喝采。そして、クリスマス・スイーツのプディング。家中で食べるにはあまりにも小さ過ぎる!
 奥さんは薄給の貧しい生活の苦しみを吐露するが、クラリットは過酷な雇い主にも感謝の祈りを忘れない。さすがのスクルージも、このままではいけないと気がつくのだ。

●第3の幽霊―未来
 それは恐ろしいものだった。
 自分の葬儀には誰も来ない。むしろ強欲な人間がいなくなって、みなせいせいしているようす。
 金目の物品が持ち去られ、身ぐるみ剥がされるおぞましさ。
 あまりにも哀れな自分の未来を見せられ、スクルージは幽霊にしがみついて、「心を入れ替えます」と約束する。

●分かち合うこと
 スクルージは、甥一家のディナーに笑顔で出席し、クラリットには町で一番大きな七面鳥を届け、給料を3倍にする。
 スクルージの生き方は変わった。分かち合うことの素晴らしさに気づいたのだ。

●日本人はスクルージか
 世界の主要国の貧困率の最近の調査によると、日本はメキシコ、トルコ、アメリカについで第4位。一人親の場合は、ダントツの第1位である。2位アメリカ、3位メキシコ)。貧困率は格差率のことでもある。スクルージも驚く数字。日本人として恥ずかしい限りだ。  クリスマスキャロルの物語は、2世紀を経た現代にも届く強いメッセージだと思う。

オリンパスOM-D EM-1 M.ズイコーデジタル12−60 ミリ

close
mail ishiguro kenji