第217回 モノは真実を語るか? 【大英博物館展】
5月10日号
 イギリスはいま沸いている。
 まず、ウイリアム王子とキャサリン妃の第2子の誕生だ。女の子で、シャーロット・エリザベス・ダイアナと名付けられた。
 シャーロットはチャールズの女性形、祖父のチャールズ皇太子の名前から、エリザベスは曾祖母の現エリザベス女王から、ダイアナはもちろん祖母でウイリアム王子の母の名だ。
 こんなに先祖代々を背追って生まれてきてはさぞ大変だろう、と思うのは、われわれ庶民の余計なおせっかいか。
 一方、イギリスは総選挙の真っ最中でもある。現政権の保守党と野党の労働党が、それぞれ支持率33%で争っているという。7日が投票日だから、この稿が出るころには結果が出て、政権が決まらない宙づり状態になることもも懸念されているらしい。(結果は保守党の単独過半数の勝利でした)。
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 この時期に、日本では「大英博物館展」が開かれている。
 大英博物館は、1959年に開館した世界屈指の博物館である。かつて世界に君臨したイギリスは、洋の東西を問わずに美術工芸品、書籍などを集めた。もちろんその中には略奪品もある。総数800万点を収蔵する。その中から、100点を取り出して、モノを読み解きながら「世界の歴史」を語ろうという試みである。
 人間の歴史は、モノとの関わりなしには語れない。が、果たしてモノは真実を語ることが出来るのだろうか。
 会場でわれわれは、まず「古代エジプトのミイラの棺」に出会う。
研究の結果、この棺に入っていたのは、シェペメヒュトという名の女性で、彼女は、テーベの神殿でシストラムという楽器を演奏していたことも分かった。もちろん研究の課程で、当時の人々の生活や宗教行事なども明らかになった。
 ところが、近年になって、棺に入っていたミイラをCTスキャンにかけると、遺体は実は男性だったことが判明した。しかも、頭蓋骨の中に、脳の中身を取り出すときに使った道具が置き忘れられていた。研究が進むにつれて謎は深まるばかりだ。
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 棺のエピソードから始まる歴史は、第8章「工業化と大量生産が替えた世界」を紹介する。中学生のころ習ったいわゆる「産業革命」から始まる現代テクノロジーの世界である。折しも日本では軍艦島をはじめとする「明治産業革命23施設」が世界遺産に登録を勧告された。
 そしてエピローグ。「いま、そして未来を語るモノ」には、101点目として、「紙管-坂茂による紙の建築」が加えられた。


写真(上) 公式サポーター田中麗奈さんを取り囲んでいるのは、「ルイス島のチェス駒」だ。映画ハリーポッター」の第一作に登場した。
写真(中) 古代エジプトの棺
写真(下左) カルパトス島の女性像(紀元前4500-3200)最古の古代ギリシャ彫像。キクラデス諸島で発見。
写真(下右) 繊細で美しい「アポロジニの網み籠」(オーストラリア1875-1927)タコノキ属パンダナスの繊維、羊毛などから作られた。

オリンパスOM-D EM-1 M.ズイコーデジタル12−50 ミリ


【100のモノが語る世界の歴史−大英博物館展】 東京都美術館 6月28日(日)まで 月曜休館 問い合わせは03-5777-8600まで
入館料:一般1600円、学生1300円、高校生800円、65歳以上1000円、早朝ペア2200円
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