第216回 マネー&ビューティ 富と美 【ポッティチェリとルネッサンス】展
4月10日号
  ポッティチェリといえば、誰でも知っているのは「ヴィーナスの誕生」だろう。写真1のヴィーナス像は、その絵から「美の女神」だけを取り出した「恥じらいのヴィーナス」と呼ばれているものだ。ポッティチェリは女性の美しさを描くことにかけてはナンバーワンの人気者で、フィレンツェの金持ちから注文が相次いだ。
 「ケルビムをを伴う聖母子」(写真2)の額縁には、象徴としての金貨がびっしり扱われている。1252年に鋳造されたフォリーノ金貨はフィレンツェの金融業を富ませた。その筆頭がメディチ家であり、メディチ家は事実上のフィレンツェの当主として君臨した。同時に、絵画を初めとする文化活動の主でもあった。莫大な利益が大がかりなメセナ(芸術保護)を可能にしたのだが、その背景には、金融、特に金を貸して利息を取ることは、当時、最も卑しい恥ずべき行為とみられていたことがある(写真3)。シェークスピア「ベニスの商人」がそうであり、現在でもイスラムでは、利息を取ることは死罪である。メセナは贖罪の意味があったのだ。
 しかし、富める者は久しからず。15世紀にフランスが侵攻し、メディチ家は追放される。代わりにフィレンツェ共和国の実権を握ったのは、サンマルコ修道院院長のサヴォナローラだ。彼は教会の堕落、法王庁の腐敗を糾弾して、時の法王アレッサンドロ6世とバトルを繰り返した。清貧思想を説き、絵や贅沢品を集めて燃やす”虚栄の焼却”で民衆から圧倒的な支持を得た。メディチ家に可愛がられたポッティチェリも、サヴォナローラに共鳴して自分の絵に火をつけたといわれる。しかし、1498年、サヴォナローラは逆に民衆によって火刑に処せられる。その処刑の広場のもようを描いた絵も飾られていて生々しい。
 ルネッサンスの名作はほとんどメセナで生まれたが、現代の金持ちは十分その役目を果たしていないという批判が、この企画を生むきっかけになったとも聞く。所詮芸術は、傲慢富者との援助交際からしか生まれないのか、あの極貧のまま亡くなったゴッホに、メセナは届かなかったのかと悲しくなってしまう。

【大関ヶ原展】
 こちらは、「マネー&美」に対して「パワー&マネー(権力と富)」というべきか。戦争はいつの時代にも最新テクノロジィを育ててきた。開催2日目に来館者が1万人を超えたという人気ぶりだ。





写真(1) ヴィーナス(ポッティチェリ工房作)優美と恥じらい。女性美の象徴とされる。
写真(2) ポッティチェリ作「ケルビムを伴う聖母子」
写真(3) 「高利貸し」
写真(4) 修道女ブラウティッラ・ネイリ(帰属)「聖人としてのジロラモ・サヴォナローラ」
写真(5) 徳川家康没後400年記念【大関ヶ原展】のナビゲーターは、歴女で有名な杏さん。

オリンパスOM-D EM-1 M.ズイコーデジタル12−50 ミリ


【ポッティチェリとルネッサンス展】 Bunkamuraザ・ミュージアム6月28日まで 4月13日,20日のみ休館。
問い合わせ03-5777-8600 入館料:一般1500円、大学・高校生1000円、中学・小学生700円

【大関ヶ原展】 江戸東京博物館 5月17日まで 休館日 4月6日、13日、20日
問い合わせ03-3626-9974 観覧料:一般1350円、大学・専門学校生1080円、65歳以上680円
(常設観覧共通券は別途設定)
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