第215回 希望の牛 もしあなたが日本を愛しているなら、この二人の詩人の声に耳をかたむけてみよう。 アーサー・ビナード
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福島県浪江町、第1原発から14キロの地点で道路は封鎖され、それ以上は近づけない。そのわずか数メートル手前に左へ曲がる道があり、そこから先は「希望の牧場」である。ここに300頭の牛がいる。
3・12の原発爆発のあと浪江町には生死をさまよう牛が、吉沢正巳さんが経営する浪江牧場を含めて数百頭いた。汚染された牛の出荷は拒否され、農水省は殺処分を迫った。処分に差し出せば1頭幾らの補償金が出る。しかし、牛たちをみすみす犠牲に出来ない人がいた。その一人、吉澤さんは自分が被爆することを覚悟の上で、牛飼いを続けることにした。実は、この牧場はいまでも毎時3マイクロシーベルトの放射能が降りやまない絶望の牧場なのだ。
絶望の牧場が希望だと? しかし、いま僕たちは、希望はどこかにあるものではなく自分の中にだけあるのだ、と気づく。生きていることがかすかな希望の火なのだと。 …その火が炎になって燃えさかることを希いながら。
写真(上)被爆3年後、牛にまだらの斑点が出てきた。農水省は原因不明といい、大学では、「放射能の影響がないとはいえない」という。
写真(中) 希望牧場代表の吉澤正巳さん(左)と話す石川逸子さん(右)中央は陶板彫刻家の関谷興仁さん。
写真(下) 詩集「哀悼と怒り―桜の國の悲しみ」(西田書店)1400円+税
オリンパスE3 ズイコーレジタル12〜50ミリ
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