第214回 1番美しかった高倉健さん 写真集「健さん」の真実
2月10日号
  高倉健さんが亡くなって3か月になる。突然の発表に人々は驚き、マスコミもこぞってその死を悼み、特集を組んだ。
 健さんは「網走番外地」シリーズの後、「日本残侠伝」「昭和残侠シリーズで、一貫してアウトローの流れ者を演じてきた。その後東映を離れて、「幸せの黄色いハンカチ」では刑期を終えて小市民に戻る男を、そして最後の作品となった「あなたへ」では取り締まる側の刑務官の役を演じた。
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 このたび、石黒健治写真集「健さん」を出版した。すでにコンビニなどでお目に止まったかも知れない。そして、実は先行して刊行された某社の写真集に、筆者の写真が盗用されたニュースもご存じかも知れない。読売新聞の取材に、「撮影者の名前の違う2冊の写真集に同じ写真が入って本屋さんで並ぶのは困ります」と答えた。
 撮影はデジタルではなく、まだフイルム時代だ。写真のネガは筆者の手元にある。どうしてこんなことが起こったのか?
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 昨年暮れに、カメラマンの福田文昭さんから連絡があり、写真集「健さん」の企画を示された。コンビニで1000円程度で、誰にでも手にとって貰えるようなもの、というのが骨子だった。筆者に異存はない。それどころか、福田さんが仮編集で並べられた写真も筆者の思いと一致していて驚いたのだった。
 福田さんは、田中角栄裁判の写真で有名なカメラマンだが、面識はなかった。どこでこれらの写真を入手されたのか。
 答えは尾忠則さん編の「憂魂 高倉健」からのコピーだった。この本は1971年に制作されたが書店に並ぶことなく、2009年に国書刊行会が復刻出版したもので、筆者の写真が数十枚収録されている。これで12枚の写真盗用の謎も分かった。現在のスキャンの技術は、目を見張るほどに精巧なのである。
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 健さんの写真を、筆者は1969年から71年ごろのごく短い期間しか撮っていない。いわゆる「残侠伝」シリーズの時代だけである。その後の円熟した健さんの姿は映画でしか見ていない。
 残侠伝のころの健さんは、ほんとうに美しかった、と思う。ちょうど「太陽がいっぱい」のアラン・ドロンや「エデンの東」のジェームス・ディーンが、役柄だけではなく、まなざしや身のこなしや、存在そのものがその時代の青春を象徴しているような、まぶしい美しさである。


写真(大) 京都・東映撮影所のステージの前で。健さんは、当時、人気の頂点を走っていて、連日の撮影で疲労も頂点に達していた。が、若造のカメラマンの注文にハイといって暗幕の前を2度歩いてくれた。
写真(小) 写真集「健さん」(彩流社)1200円+税

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