第209回 [台湾移動舞台車(ステージトレーラー)]は[ゴミ箱(アート・ビン)]に入らない
横浜トリエンナーレ2014

9月10日号
  メイン会場の横浜美術館を入ると、まず立ち現れるのは、吹き抜けの天井に届きそうな巨大なゴミ箱である。アート作家たちのための、過去の作品や失敗作を捨てるアート・ビン(アートのゴミ箱)なのだという。
 イギリスの作家マイケル・ランディが彼自身のすべての持ちもの、出生証明書から家族との思い出の品々、車など72227点を壊して捨てて、そのことを作品として発表した、そのアート・ビンが、ヨコトリ・メインエントランスホールに据えられたのだ。
 ふと思い出したことがある。2011年、第4回ヨコトリのことを書いた当欄の記事で、美術愛好家で一家言の持ち主の先輩にトリエンナーレのことを話すと、「そのような明日にはゴミになるかも知れない作品につきあっていられない」とにべもなかったことを書いた。先輩によれば、年月を超えて輝きを増すものこそ鑑賞に堪えるアートである、というわけだ。
 しかし、ビエンナーレやトリエンナーレは、2年または3年おきに、現代に生きるアーチストが、世界中から、既存の美術館に入りきれない作品を作って参加するお祭りである。(今回は65組79名400点)。それらは、明日にもゴミになることを恐れず、既存の権威や官制アカデミズムに反旗を掲げ、社会と精神の亀裂を告発し、時代を切り開く作品であるはずだ。
 ヨコトリは、2008年の第3回までは、横浜港の倉庫などを使って意欲的な取り組みを見せたが、2011年の4回からメイン会場を横浜美術館として、アカデミズムに片足を突っ込んだ形となった。
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 過去の作品を多く並べた美術館から、送迎バスで新港ピア会場へ行く。こちらのエントランスホールを、1台のトレーラー車が占拠している。出品作品を運んできたのかと思っていると、にわかにトレーラーの扉が開き、跳ね上がり・・・、「ついに舞台がやって来た。海を越え天を翔ぶための鱗と翼を纏い山々に咲かせるための夏芙蓉の花を抱いて。『台湾の移動舞台車』というのは、寺の祭り、カラオケ大会、選挙運動のために出動する『貸し舞台』である。ほとんどの場合、興業主が一人で運転してやってきて、舞台を開き、音響照明の操作をし、夜更けには舞台を畳んで、次の場所に移動して行く。・・・・」(やなぎみわ「あてどなき旅公演のために」より)しかも、やなぎさんの演しものは、中上健次原作の『日輪の翼』だという。
 この怪物は、ゴミ箱に入り切らない。大きさもさることながら、この舞台はひ弱なアートや今回のテーマの「忘却」にも無関係で、世界の隅々で翼を広げ、海を渡り、どこまでも移動を続け、休むことはない。


写真(上) マイケル・ランディ(イギリス)「Art Bin(アートのゴミ箱)」に、アーティスティックディレクターの森村泰昌さんも自作を投げ入れた。
写真(中) 翼を広げ電飾に輝く台湾移動舞台車(ステージトレーラー)
写真(下) ポールダンスでお披露目

オリンパスOM-D E-M5 M.ズイコーデジタル12−50 ミリ


【ヨコハマトリエンナーレ2014】
横浜美術館+新港ピア(+初黄・日の出地区、黄金町、象の鼻などで、提携プログラムも組まれている)
11月3日まで 第1,第3水曜日休場(通常10時〜18時)
入場料(+想像界隈拠点連携プログラム):一般1,800円(2,400円)、大学・専門学校生1,200円(1,800円)、高校生800円(1,400円)
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