第208回 「離れて暮らす恋人たちのお互いの写真」 横尾忠則肖像図鑑 HUMAN ICONS展
8月10日号
  横尾さんは、俳優、作家、ミュージシャンなど、様々な時代のスターたちを描いてきました。高倉健(タイトルは網走番外地=以下同じ)や山口百恵(M・Y嬢の肖像)、桃井かおり(KAORI)、浅丘ルリ子(マドンナのいる風景)、ビートルズ、・・・・書き切れません。
 瀬戸内寂聴さんの『奇縁まんだら』の挿絵から始まった作家の肖像は、夏目漱石や川端康成、小泉八雲、正岡子規、樋口一葉、金子光晴、大岡昇平、司馬遼太郎、寺山修司、中上健次・・・・総数222名。さらに日経シリーズでは岡本太郎、美空ひばり、勝新太郎、田中角栄、勅使河原蒼風・・・135名。敬称を略しても、名前だけで紙面がいっぱいになってしまいます。
 その膨大なポートレート(似顔絵といった方が横尾さん好みでしょうか)の巡回展が、川崎市民ミュージアムで開かれています。
 その案内状に、「描かれた人物の大半は、写真や絵画など既存のイメージの流用あるいは模写でありながら、そこに横尾自身のイマジネーションや私的な物語が加わることで、人物は特異なイコンに昇華されたと言えるでしょう。」とあります。
 イコンは、イエスや聖者の肖像、キリスト教の逸話などを、主に木の板に描いたもので、最初はキリストの教えの絵解きの役目もあったようです。
 イコンは信仰の対象ではなく、信仰の対象を描いた偶像である、とされています。ちょうど「離れて暮らす恋人たちにとってのお互いの写真」のようなものだと。
 横尾さんの「肖像図鑑」の英訳タイトルに、ヒューマンイコンと名づけた横尾忠則現代美術館などのスタッフは、核心を突いて鋭い。  
oooo
   さて、その展示の一角に、横尾さんが自分の家族を描いた壁面があります。ライオンをつれた結婚式の『赤い糸』や『夢の贈り物』、奥さんをモデルにした『YASUE』などです。
  百花繚乱の肖像とは別の、作家自身の「イコン」を見る思いがしました。

  
写真上 夏目漱石、川端康成、井上ひさし、・・・・222人の作家たちの肖像
写真中 家族の肖像、右は『赤い糸』
写真下 横尾さんは『家族狂』という本を制作したこともある

ニコンF ニッコール50ミリ
オリンパスOM-D E-M5 M.ズイコーデジタル12−50 ミリ


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