第207回 「チャンスは一日に3度ある」 Aいま、何がおいしい?
7月10日号
  藤本さんのメール。「・・・私は早起きで、毎朝、ラジオを聞きますが、今日も、昨日も、一昨日も「ラウンドアップ!ラウンドアップ!」というCMがずっと流れています。きっと、たくさんの農家さんが早朝の作業中に、このCMを聞いていることだろう。と、私は毎日が怒りのスタートです。(失笑)」
 藤本さんは、この10年で急速に株式会社化したアメリカの農業のことを言っているのだ。GM(遺伝子組み換え)種子とGM種子以外の植物を殺す除草薬をセットに収穫を倍増。しかし雑草の方も免疫が出来て、それこそ雑草のように生えてくる。ますます大量に撒く。人間にも影響が出てくる。母乳から除草剤の成分が出る。
 結果は分かっていてもやめられない。利益優先を怠れば株主訴訟が待っているからだ。
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 2007年の大統領選挙で、オバマ候補は「私が大統領になったら、すべてのGM食品にラベル表示を義務づける。なぜならアメリカ国民は、自分たちが買った食品の中身を知る権利があるからです」と演説した。しかし、この「ラベル表示義務化法案」は、全米各州で次々否決された。そして1012年、大統領は通称モンサント保護法に署名する。それは、「遺伝子組み換え作物で消費者の健康や環境に被害が出ても、因果関係が証明されない限り、司法が種子の販売や植栽停止をさせることは出来ない」というものだった。
 これで、アメリカ国民は自分が今何を食べているか、完全に分からなくなり、分かってもどうしようもなくなってしまった。現在、アメリカの作付けの、甜菜の95%、大豆の93%、トウモロコシの40%がGM作物である。GM食品でないものを食べることはアメリカではほとんど不可能だ。  
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   GM作物は生産効率がよく、消費者にとっては安く、しかもおいしい。それで何が悪い、という声が聞こえてくる。
 雑談で、甘くておいしいトマトのことを話したとき、藤本さんはいぶかって、「トマトは甘いだけじゃないですよ」と言う。
 ぞっとした。僕の感性の「おいしさセンサー」が、TVタレント並に、「ウメ」「ヤバ」のレベルに落ちていることに気がついた。
 残念ながら僕は温室育ちじゃないトマトの味を知らないが、たぶん、甘味よりも酸っぱくて、野菜くさいのだと思う。
 以前、野生のオリーブの木からとれたオリーブオイルをいただいたことがあった。それは「おいしい」ではなく、いがらっぽくてエグ味の強いものだった。
「いやにエグいじゃないか」と思った。すると「いやあ、今年は日照りがきつくてね」と返事が返ってきた。
 自然の味は厳しい。イタリアの乾いた土地と、激しい太陽の味が、二つとも体に入って来た。
 藤本さんのメール。「美味しい、の言葉の由来は、私の作るものではなくて、それは農家さんだったり、その土地を維持しているということだったり、野や山だったり、海だったり・・・うーん、尽きないです。」そして、「岩手県の沢内村は、数十年前まで医者が一人もいない陸の孤島のような村でしたが、この時期カタクリの花が咲く水の綺麗な所です。土地が豊かでないからなのか、とても知恵がある村です。盛岡で生まれ育った祖母にも伝承されたので、最近私は記憶を頼りにパクっています。作っています(笑)」。
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 その後、さすがにモンサント保護法は13年9月に廃止された。しかし、GM作付けは世界を席巻しようとしている。
 イラクは20万種ともいわれる小麦の種子バンクを持っていたが、空爆ですべてを失った。米軍が撤退したあと、荒野となった土地に立ってぼう然としているイラク農民に、GM小麦の種子と農薬のセットが無償で提供された。スポンサーはモンサントなど、バイオ産業の大手だった。
「アメリカの魔法の種子」は驚異的だった。収穫は倍増した。しかし、農民はその種子を翌年に使うことが出来なかった。
 種子は毎年モンサントから買うこと、農薬もしかり、その上、特許料を20年間払い続ける契約になっていた。農民は借金し、ついに破産して、農業株式会社の奴隷的な働き手となった。
 メキシコではトウモロコシが、インドでは綿花が同じ手法でやられた。インドの農民の自殺者は27万人に達した。 
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 いま、35カ国がGM作物の輸入規制をしている。が、韓国は、米韓FTAで、GM食品の安全性についてモンサント保護法に近い条項を受け入れた。
 TPPは交渉の内容を秘密にしているが、GM作物と農業株式会社化だけはNO!といってほしい。お願いだ。
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  「・・・私は、何もなすことはできなくても、毎日、一日3回、ちょっと夢を見ます。まだまだ、希望を持ち続けたいから。
 今日は、雨ですが、気持ちのよい季節です。・・・さて、そろそろお米を洗ったりします。」

写真 大田市場にて

オリンパスOM-D E-M5 M.ズイコーデジタル12−50 ミリ


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