第206回 「チャンスは一日に3度ある」 @出汁抜き手前味噌汁
6月10日号
  「1日に3回もチャンスがある。という言葉を信じているのです」と語るのは、藤本比呂さんである。
 いったい何のチャンスか? そして藤本さんはどういう人か?
それは徐々に明らかになる。   
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 知人のパーティでイワシの煮物と炊き込みご飯の差し入れを持参の方があり、彼女が藤本さんだった。たまたまその場に居合わせて、いただくと、ちょっと不思議な味わいの料理だった。そして、知人との会話に加わっているうちに、知人が約束していた手作り味噌を、お裾分けで筆者もいただけることになった。
 味噌が届き、同時にメールが入った。
「鰹や昆布、いりこなどの出汁をとらずに味噌汁を作ってみて頂けたら嬉しいです。旨みが出るタイプの野菜、この時期で手に入りやすいのは、えのき茸や人参、セロリ、切り干し大根等です。
 水から野菜を茹で、最後に味噌を足して下さい。出汁をわざわざとらなくとも味わいがあり、本当の手抜き味噌汁です。(笑)」
 レシピの通り作ってみた。特においしいというものではない。旨いというよりも、食べていて楽な気がした。
 食べ終わって、あ、そうか、と気がついた。この味噌はおいしさを強要しない、だから楽なんだ。いつもの市販の味噌は高級なものほど、一口ごとに、旨いだろう、と言ってくる。おいしさのトゲがある。この味噌にはそれがない。
 トゲは添加物のせいかもしれない。アルコールをまぜ調味料さえ加える。  思ったことをそのままに、お礼のメールを書いた。その返事。
「日本食が世界遺産とやらになり、いわゆる『出汁』の旨味が取り上げられていますが、私が肌感覚で思うのは、味噌や醤油は単に調味料ではなく、出汁も兼ねていると思うので、そのまま体や舌がしっくりくる、という気がします。
 以前、麹屋さんとお話をした際、「われわれは、なんにもしていない。菌の力をお借りして、発酵を待っているだけなんです」と聞いて目から鱗でした。確かに、味噌作りに人が手を加える工程は、わずかです。(畑を耕して、大豆や米、麦を作ってくださる方々は別格ですが。)
 いま、味が優先されて星いくつ、の時代ですね。いつから日本人はこうなったのでしょう。なんだか、偉そう。(苦笑)」   
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   5月末、新しいメールが入った。藤本さんは悔しがっていた。
「5月27日(火)ロイターで以下のような記事が配信されていました。米国人の方の母乳から、高濃度のラウンドアップの成分が検出された、というものです。日々、食に関わっている者としては、前々から気になっていたことがとうとう来た、という思いです」。
 ラウンドアップは米モンサント製の除草剤で、日本でもたくさん使用されている。遺伝子組み換え種子とセットで、アメリカやアルゼンチンやインドの農業を変えてきた。   
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 1日3回のチャンスとは、食事のことだとはわかった。が、どうすれば良いのか、続けて藤本さんと話をしたいと思う。

写真 (左)赤空豆と空豆とご飯+ごま(赤空豆をご飯と一緒に炊き、別にゆでた空豆を加え、ごまをトッピング)
    (右)イワシの梅煮と油揚げとふきのキンピラ

オリンパスOM-D E-M5 M.ズイコーデジタル12−50ミリ F2.8


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