第201回 新・写真作法G 【地平線の謎】2
2月25日号
  前回は、地平線の位置で、画像の空間が変わることを学びました。
 さらに、極端な仰角と俯瞰を見てみましょう。この場合、地平線は消滅して、上下の関係がなくなります。

●地平線の消失
仰角

   カメラを極端に仰角に構えると地平線は画面の下へ消えて、空しか写りません。つまり、空・雲の写真になってしまうのですが、都会の空はそうはいきません。林立するビルが視界を遮ってしまいます。
 解剖学者の養老孟司先生は、現在の世界は、自然がすべて人間の脳によって作り替えられた。いま、自分の身の回りを見れば、街や家、足下の道路や森さえも人工のものである。かろうじて自然のままを保っているのは、空と人間のからだだけかも知れない、という意味のことを述べられています。
 確かにその通りですが、いまや空には人工衛星が飛び、STAPの時代には、人間の身体さえ、あやしくなって来ることが確実です。

俯瞰

 次に、俯瞰して足下を見ます。地平線は画面の上へ去ります。多くはパターン(模様)になってしまうのですが、写真家の石元泰博先生は、道路に捨てられた「あき缶」や「葉っぱ」が、しだいに土に還って行く姿を撮られて、うつろいゆく生命の姿を表現されました。この写真は、先生の晩年の傑作をまねて習作したものです。

●地平線の傾き

 つづけて、カメラを傾けて地平線を斜めにしてみましょう。空間には不安と動揺が広がります。土砂崩れで、人々が逃げて行くようにも見えます。


 平穏な尖閣列島・魚釣島の夜明けです。


 揺れる船からの映像です。水平線は斜傾して、尖閣列島を巡る空間は、決して平穏ではないことを暗示するようです。

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