第199回 新・写真作法F 【地平線の謎】1
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画面左より
地平線位置中央) 安定した画面。平凡・平穏な空間が得られます。平安な普通の親子の1日です
地平線位置下) 地平線を下げる。つまりカメラは仰角になります。空や雲が視野に入り、明るい、開放感のある、軽快な空間が出現します。この親子には楽しいことがあったようです。
地平線位置上) こんどは地平線を上げてみます。カメラは俯瞰気味になります。閉鎖的で、空間は重い・暗いものに変わります。
●ミレーの「晩鐘」の謎
ミレーの「晩鐘」や「種まく人」は、あまりにも有名です。世界中で複製が作られて、飾り額やテーブルマットにもなっていますから、知らぬ人もいないくらいです。
画家たちも、惜しみないオマージュを捧げています。
ゴッホは練習のために模写をくり返し、ダリは、たくさんのパロディ(表題下図版参照)を描きました。
その、ダリの説はこうです。すでにNHKの「美の壺」や中野明子さんの著作によって、広く知られた話ですから、簡単に紹介します。
ダリは「晩鐘」に子供のころから違和感を抱いていたといいます。
この若い夫婦は、一日の仕事を終えて帰り支度をしているときに晩鐘を聞いて、今日の感謝の祈りを捧げているのではない。横にある手押し車の中にはジャガイモの袋が入っているが、はじめ、生まれたばかりの赤子が入れられていた。彼らは暮らしが貧しく、赤ちゃんを育てることができなかったから、畑を掘って、その死骸を埋めたのだ。そして、その児のために祈っているのである。
ダリの指摘で、夫婦の足もとをレントゲンで調べたところ、下絵に黒い壺のようなものが描かれていたといいます。
改めて「晩鐘」を見てみましょう。
地平線は比較的高い位置に描かれていて、畠の土の部分が強調されています。ダリが幼いころに覚えた疑惑も故なしとしない。そんな気がしてきます。
写真は、晩鐘を模写したものですが、試みに地平線を下げてみました。
決して明るい、軽い空間とはいえませんが、これならダリ少年も、まさか土の中に何かが埋まっているなどとは感じなかったのではないでしょうか。
ハッセルブラッド500C プラナー80ミリ
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