第198回 去年今年貫く棒の如きもの 虚子
1月10日号
  明けましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願いします。
 今年はどんな年になるのでしょうか。毎年、新年になると、願いを込めて新しい計画を立てたり、行く末を占ってみたり・・・・。
 一国のリーダーともなると、その責任の重さからか、いまでも占いに頼る首脳が意外に多いようです。
 15世紀の琉球王国時代、第1尚氏王統の第7代尚徳王(1441〜69年)は、経済や外交に積極的な君主だったそうですが、当時の琉球王国は中国に進貢しながら、朝鮮や日本との関係が複雑で悩ましい情況がありました。内外の不安を抱え、尚徳王は、久高島に居る有名なノロに会いに行きます。ノロはクゥンチャサンヌルという女性で、目に見えない異界と交信のできる超能力を持ったシャーマンで、しかも大変な美人でした。
 王は、たちまち恋に落ちてしまいます。逢瀬を重ねながら、何を占ってもらったのでしょうか。王は絶望のまま本島へ帰る途中、王朝で反乱があったことを知り、荒れ海に身を投げてしまいます。それを聞いたクゥンチャサンヌルも自死を遂げたのでした。尚徳王は29歳でした。
 あくまでも神話に近い伝説ですが、実際にこのとき第1尚氏王朝は終わりを告げ、第2尚氏時代に政権交代をしたのです。
 さて話は変わりますが、写真を見てください。これは石垣島の白保の民家の庭で見つけた木です。樹木と言うより、逞しく力がみなぎり、うねっている武骨で巨大な棒のような印象を受けて圧倒されました。
 白保は、約230年前、大津波に襲われて、村全体が流されました。生き残ったのは、人魚のお告げを信じた3名だけだったという言い伝えもあります。
 従って現代の白保は、ほとんどすべて新しく入植した人たちが作り上げた村落です。新しくといっても230年前のことですが、確かに曲がりくねった道などない整然とした村作りが行われたことが分かります。その通りに面して立つ一本の木は津波が去ったあとの荒野を美しい集落に作り上げてきた努力を象徴する棒のようにも思われました。
 このとき、突然ですが高浜虚子の句を思い出しました。
 去年今年
  貫く棒の如きもの
 この句の意は、新しい年を迎えたからといって、去年からのすべては太い棒のようなものでつながっている、というところでしょうか。
 虚子は、正岡子規の最後を看取った俳人で、花鳥風月と風物写生の俳誌「ホトトギス」を主宰していましたが、いきなりこのような句を詠んで俳界を驚かせたと言います。
 過去と現在を貫く太い棒の内側では、大きく変化を求めてうねる、渦巻きの音を聞く思いがするのでした。

オリンパス E-5 M.ズイコーデジタル12−60ミリ

close
mail ishiguro kenji