第196回 平成海老騒動始末記
12月10日号
写真A 写真B どちらが芝エビか、バナメイエビか、分かりますか? 答えは記事下に。

 今年の流行語大賞は4つ。「今でしょ」「じぇじぇじぇ」「倍返し」そして「おもてなし」。年の終わりを騒がせた海老騒動の主役「バナエイエビ」は候補にも入らなかった。発音がしにくいからか、今さら蒸し返したくないからか、それとも外国産のエビを芝エビと偽ったことぐらい、たいしたことではないからか。
 かつて言葉は絶対だった。身体やモノはうつろいやすい。言葉のみが真実を語り伝える。人間と動物を分けるのは、言葉のあるなしである。
 その言葉が信じられなくなって、真実を語るどころかウソを伝えるようになったのだ。これは、10大事件のトップを飾ってもおかしくはないのだが。
 言葉だけが犯人ではないかも知れない。鈍くなった五感が重要な共犯者ではないか。昔の人なら文字が読めなくても、一瞥、一嗅ぎで、真贋を見極めたのだ。
 芸能人に10万円の逸品と800円のテーブルワインを飲み比べて当てさせるというテレビ番組があった。「私は毎年フランスへ行って毎晩のんでいますから」という一流芸能人が、見事に間違えて三流に落ちるというもので、ワイン通の友人と笑い合ったものだ。しかし笑ってはいられない。我々の感覚は、三流芸能人のように落ちるところまで落ちたのは明らかだ。飛びっこをキャビアと言われて疑いもしなかったのだから。
 元料理人で現在「男の料理教室」を開いている木澤保宏さんに話を聞いた。
「バナエイはホワイトシュリンプと言って、タイやマレーシアの養殖で重要輸出産業品です。芝エビに比べて、病気に罹りにくいから養殖がしやすい。リスクは少なくて味も悪くない。天ぷらにしたらまず分からない。値段も築地であまり変わらないはずです」
 木澤さんが海老をさばいているとき、黒いはずの背わたが白くなっていて、料理することがストレスになったという話を本欄で語ってもらったことがある。「抗生物質など薬の大量投与ですが、今では養殖技術も進歩して、天然自然の環境でやるようになったから、薬漬けは解消した、したように見える、オモテナシだから」
「えっ、なんです?」
「オモテナシにはウラガアル(笑)。海老といっしょに告発されたビフテキだって、繊維をほぐして固め直す合成技術の進歩の成果ですよ。さいころステーキはミンチから作る。シリコン入りと言うが今はどうかねえ。フカヒレも同じ。マグロなどの冷凍技術も凄い。上がったものを瞬間冷凍するからへモグロビンがそのまま保たれる。赤身がおいしいってわけです」
 今まで庶民には高嶺(値)の花だった高級食材が普通に食べられる、いい時代ですよ。

オリンパス OM-D E-M5 M.ズイコーデジタル75ミリ F1.8



★答え Aがバナメイエビ、Bが芝エビ。
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