第189回 「役者」たちの暑い夏 靴下を巡る2つのパフォーマンス
8月25日号
  役者・クリスタル真希さん。華美ではないが文句のつけようのない美貌。優美としか言いようのない姿態。混血優生説を信じたくなる。ロサンゼルスで生まれ、ハワイと日本で学び、大学はニューヨーク。イーストヴィレッジに住み、レストランのウエイトレスをしながら、クリエティング・ライティング科を卒業した。その間、フジテレビのニューヨーク・レポーターのアルバイトをしたときは、長時間拘束されるウエイトレスから開放されてとても良かった。
 25歳で日本へ。3年間、新国立劇場演劇研究所で演技の勉強をした。試演会では「かもめ」のニーナを演じた。
 そのあとは、日常の断片や幼い日の記憶を書いて、自分で演出し、自分で演じるアクター・ディレクター・ライターとして、コント風一人芝居のパフォーマンスを続けてきた。もちろん、カフェバーのアルバイトをしながらである。「生活はぎりぎり。家賃が遅れるときもある」と笑って屈託がない。
 なぜ芝居を続けるのか? ときいた。すぐには答えが出てこない。
そんなことを考えたこともないわけではないが、結局、本能的に演じることが好きだから、としか言えない様子だ。演じることは、つかの間の異空間に住むことだろうか。ちなみに肩書きは「役者」がいいという。
 音楽のシンガーソング・ライターも一人3役だが、芝居はもっと複雑で簡単ではない。そのことに気づいたのか、最近の活動は、演劇研究所時代の級友と組んでの2人芝居に変わった。今回は、武田桂くんと組んで、靴下をテーマにしたパフォーマンスとなった。
 武田作品「ジョージ・カミヤ」は、靴下のデザインを依頼された悩めるファッションデザイナーの話。クリスタル真希の作品「SOXチャチャチャ」は靴下を巡る愛の物語だ。日本人の父とハルハイハナワイ人との間に生まれ、架空の島で育った女の子が、17歳で家を出て父親を探すために日本へ行く。幼いときから、両親の喧嘩が原因で発作が起こり、SOXを履けば収まるトラウマがあった。以来、恋人ができても汚いSOXを脱ぐことができない。
 さて、俯瞰に見立てたベッドの中で、彼女はSOXを脱ぐことができるだろうか? 物まねあり、英語、日本語、岩手弁あり、ちょっとSEXYな舞台となりそうだ。
 彼女たちに限らず、演劇を目指す若者たちが最も困るのは、舞台と稽古場だ。彼女たちは、カラオケボックスやNHK前の公園の街灯の下で、虫除けスプレーをかけて毎夜、稽古を重ねた。舞台は、
全国でブティックを展開するKAPITALが、恵比寿のDUFFLU店のアトリエを提供してくれた。魅力のある素晴らしい空間だ。
 青春を役者一筋の暑い夏もまもなく過ぎていく。彼女たちが靴下を脱いで、ガラスの靴を履く日が1日でも早く来るように!

 
写真(上) ベッドを俯瞰した舞台装置も自分たちで考えて作る。クリスタル真希の作品「SOXチャチャチャ」の稽古。
写真(下) 稽古場を求めて、代々木公園の街灯の下で、武田桂作品「ジョージ・カミヤ」の稽古。

オリンパス OM-D E-M5 M.ズイコーデジタル12~50ミリ


★武田桂作「ジョージ・カミヤ」+クリスタル真希作「SOXチャチャチャ」
恵比寿Duffle with KAPITAL アトリエにて。8月23〜25日 03−5768−1965 料金1,000円


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