第186回 新・写真作法D 実践編@ タンス 広角と望遠
7月10日号
  いよいよ夏本番、夏休みが近づいてきました。バカンス旅行や里帰りと、この季節は、カメラが最も活躍するときですね。この機会に、写真を数倍楽しむ術を考えましょう。
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 職業柄、写真を見てくれという依頼もしばしばです。ご自慢の写真が撮れると、誰かに見せたくなるのは誰も同じです。その日、大量のL判の写真をもってきたのは、映像心理学を学ぶ某女子大生でした。海外旅行に行ったときの写真、友だちとの呑み会の写真。どれも感性豊かで、生き生きとした情景が撮られていて、敏捷なカメラウーマン振りが、想像できます。しかし、気がつくと、どの写真も画角が同じ、つまり被写体との距離がほとんど同じ。たまに広い風景の写真もあるが、それは列車の窓からとか、単に場所が広かっただけ、のようです。
 カメラを見せてもらいました。オリンパスOM−D E−M5。なんと、ぼくがいま毎日もって歩いて使っているカメラと同じじゃありませんか。レンズも同じズームレンズです。「ズームは使わないんですか」ときいてみました。彼女は「はあ、そういえばあまり・・・」と、浮かぬ顔です。
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 彼女のレンズにはブランド名のほかに、12mm-50mm 1:3.5-6.3の表記があります。12mm-50mmは焦点距離です。ここでややこしいのは、この焦点距離の表記が、デジタルの場合、CCD(受光部分)の大きさによって違うことです。現行では、フルサイズ、APS、フォーサーズの3種が主流です。フルサイズとは、35mmフイルムカメラ時代の標準サイズに従ってそういっているのです。APSは約2/3、フォーサーズは1/2、彼女のカメラはフォーサーズ機ですから、12mm=フルサイズ換算で24mm、50mm=100mmになります。ちなみに人間の目の標準は約50mm(彼女のカメラでは25mm相当)だそうです。
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 ズームの12mmは、広角。人間の視覚の2倍の広さで撮ることができます。風景なら全景を、部屋なら広々と、舞台なら隅々まで見ることができます。どちらかと言えば、社会派、情報系といえます。
 50mmはやや望遠、人間の視覚の約半分。ターゲットを絞って撮ることができます。撮りたいものを撮るとき、1番いいのは近くに寄ることですが、たとえばサッカーや野球の選手をアップで撮ろうとしてもグランドに降りては行けません。だからTVや新聞のカメラマンは、巨大な1000mm望遠レンズを抱えてスタンドに陣取るのです。
 たとえば、舞台で歌い踊るAKB48の若いタレントたち。(写真上) 群舞はきれいで迫力があります。が、お目当てのタレントはどこ? あ、いました。左から3番目に、ひときわキュートに、キラキラ輝いているではありませんか。このとき、あなたの視界から、全体は消えて、彼女だけが浮き彫りになります。カメラより先に、あなたの目が望遠になってしまいました。(写真下)
 
 望遠には、遠くのものを見る〈引き寄せ効果〉がありますが、主観的、求心的なカメラワークに力を発揮します。
 大事なことは被写体とのスタンスです。単に距離ではなく、どのような感情を込めて撮るか、精神的なスタンスだと思います。
 広角で全体を撮ったあとは、子供たちの喜ぶ表情や、愛する人の輝やいている眼にぐっと寄って、記憶に残る夏を表現しましょう。
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 新・写真作法は、予定を変えて夏休み実践編としました。

写真 オリンパスE-330 zuiko 14-54mm. 撮影データ:50mm 絞りF4 、1/160秒(2007年撮影)



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