第168回 「始発電車をまちながら」 復原なった東京ステーションギャラリー
10月10日号
  JR東京駅・丸の内北口の改札を出ると、異常な人の群れに出会います。いつもはそれぞれの目的方向へ急ぎ足の人の流れが、停滞し、みな、ケイタイをかざして天を仰いでいます。大型のデジカメを向けている人もいる。500億円の費用と6年半の時間をかけて、復原完成した駅舎のドームを見ようという人たちです。
 100年前の1914年に建設され、空襲で破壊された重要文化財です。関東大震災にも耐えた駅舎の地下からは1万本の松くいが出てきたという。今度の工事では駅舎の下に新しく地下を作り、最新の免震装置352台を設置したそうです。
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 ドームのざわめきにまぎれて見落としてしまいそうですが、改札を出た右脇に瀟洒なガラス張りの入り口があって、新しくなった「東京ステーションギャラリー」が再デビューしました。エントランスは、創建当時の赤煉瓦の壁がむき出しのまま使われています。
 建物そのものはもちろん、アート作品を飾る壁も重要文化財だから、ちょっと例を見ない贅沢な空間です。
「ええ、実際、何かと気を遣います」と、案内してくれた学芸員の穂坂紀恵さん。「煉瓦の壁を観にこられる方も多いんです。でも、これを機会にアート作品やパフォーマンスに興味を持っていただけたらとても嬉しいです」。では、作品を見てみよう。その前に・・・、
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「東京ステーションギャラリー」の誕生は1988年。以来18年間の活動が中断し、駅舎復原工事の6年半は、旧新橋停車場・鉄道歴史博物館などで館外活動を続けていた。そして10月1日再オープン記念展として、「東京駅」または「鉄道」という視点から発想された作品を9人(組)のアーチストに依頼しました。秋山さやか、大洲大作、クワクボリョウタ、柴川敏之 パラモデル(林泰彦+中野祐介)、廣瀬通孝、廣村正彰、本城直季、ヤマガミユキヒロの9人です。満を持しての再出発です。題して「始発電車を待ちながら」。
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 警備や案内、説明に当たる黒服の館員さんはいずれも初老の紳士で、みな溌溂としているように見えました。元駅長さんなど鉄道の関係者が多いそうです。再出発の発車を心から喜んでいるようでした。



★東京駅復原工事完成記念展「始発電車を待ちながら」 2012年10月1日〜2013年2月24日まで
(休館日:月曜日 ただし月曜が祝日の場合は火曜日、 12月29〜1月1日。詳しくは 03−3212−2485まで)
入場料 500円 中学生以下無料

写真(上) 廣村正彰作 館内の壁を見詰める人たち。おや、自分も写ってるか?と錯覚させられる。
写真(中) パラモデル作 床から天井まで、レールの玩具や塩ビパイプなどを縦横に増殖させる。
写真(下左) ロビーを見下ろす回廊もギャラリーの館内。 同(下右) ドームを見上げる人々。

オリンパス OM-D E-M5  ズイコーデジタル 12~50ミリリ


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