第154回 インドのことをもっと知ろう 日本とインド国交60周年を迎えて
2月25日号
  だいぶ以前のことだが、アメリカのクイズ番組で、優勝の賞品が「一生インドへ行かなくても良い賞」だったことが話題になった。
 なぜこれが優勝賞品なのか、当時の筆者には分からなかった。(実はいまでもよく理解できていないのだが)、わけ知りに聞くと、それは、「たとえばインド支店へ転勤になったとき、拒否してクビになっても生活を保証される権利」ということだろう、との答えだった。つまり、貧しい、汚い、病気が蔓延している國インド、そんなところへは一生行きたくない、というのがアメリカ人の一般的な感情なのか、と驚ろいた。そして、逆に、奥深い魅力をたたえたインドを知らずに過ごすアメリカ社会を哀れに思ったものだった。
 時代は変わった。インドはいまでは世界経済を引っ張る強力なエンジンだといわれる。今度は、インドへインドへとお百度参りが始まった。ほとんどが巨大なマーケットを目指してのことだ。
 今年、日本とインド国交60周年を迎える。経済だけでなく、インドの文化をもっとよく知る良い機会だと思う。
 東京・九段のインド大使館、インディア・カルチュアル・センターでインド舞踊オリッシー公演を観た。ヴィータ・ディベディさんのインド古典舞踊である。
 公演は、まず、ヒンズーの太陽神(ビシュヌ神)に祈りを捧げる式から始まる。舞踊が寺院での奉納舞いを発祥としているからだ。
 最初の演目「サルヴァム・パラム・ブラフマム」は、地・火・水・空気・宇宙の5元素を司る絶対神のことで、その存在に気づいたとき、人は神の足下に身を投げ出し、物質的世界から決別するというストーリーだ。
「アーヘ・ニラ・シャイラ」は、らい病に犯された詩人が、ジャガンナート神に祈りを捧げ、助けを求める。「おお神よ、あなたが象をワニから救ったように、私をこの不運と苦痛からお助けください」。神の名を呼び続ければ病いも克服できるというもの。
「ピンガラ・サムルパン」は、娼婦ピンガラが魅力的な資産家に出会い、自宅に来るように誘う。しかし男は現れない。目いっぱい着飾って待っていた彼女は、落ち込み、怒りに震えた。そのとき、ピンガラの心に自責の念が沸き、物欲に満ちた世界から去る決意をして神の前に身を投げ出す、という踊りだ。
 インド舞踊には8種の系統があり、いずれも京劇の祖であったり、フラメンコの源流だったりするのだという。
 インディア・カルチュアル・センターと早稲田でインド舞踊教室を開いている安延佳珠子さんは、オリッシーの舞踊に仏教的なものを感じる、という。
 いま筆者は「インドで一生を送る賞」があったら、すぐに応募したいと思っている。


写真(上大) 「アーヘ・ニラ・シャイラ」おお神よ、あなたがワニから 象を救ったように、私をこの不運と苦痛からお助けください。
写真(下小3枚) パントマイムの要素の強い「ピンガラ・サムルパン」人間の9つの感情を表現するナヴァ・ラサは。恋情、笑い、悲しみ、怒り、勇敢、恐怖、嫌悪、驚愕、平安である。

■問い合わせ:安延佳珠子インド舞踊スタジオTel 03-3209−0271

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