第153回 風邪は万病を救う? 「風邪を引くのは一種の治療行為である」
野口晴哉「風邪の効用」を読む

2月10日号
  今年の冬は厳しい。北陸では4メートルの積雪。関東は低温空っ風。豪雪の福井から上京してきた知人が、「東京は寒い」と縮み上がった。乾燥でヒリヒリした寒気がこたえるらしい。この気候がインフルエンザ菌にとっては活躍の好条件だというからたまらない。すでに177万人がやられ(2月1日現在)ここ10年で最悪だという。
 寒風が強い日、若い友人が1冊の文庫本を持ってきてくれた。本は野口晴哉著「風邪の効用」。石黒さんはいつも風邪気味だから、という。
 指摘されるまでもなく、すでにこの朝、くしゃみが止まらない状態だった。寒暖の差について行けず鼻水が出る。少し疲れても咳、徹夜でもしようものならたちまち喉を腫らし、風邪薬のやっかいになる。呑み過ぎればお腹を壊し、今度の風邪は胃腸に来るらしい、風邪は万病の元だ、さあ大変だ、と抗生物質をのむ。・・・これがこの本を読む前の体と心の状態だった。
「風邪は誰もひくし、またいつでもある。秋でも、春でも、どこかで誰かが引いている」と野口さんはいう。「頭を使いすぎて頭が疲れても風邪を引く。消化器に余計な負担をかけた後でも風邪を引く。しょちゅう心配している人は神経系統の風邪を引く」。「とにかく身体のどこかに偏り運動が行われ、働かせすぎたところが出来て、身体のバランスが悪くなると風邪を引く」。
 しかし、「風邪を引いた後は、引く前より身体のバランスがとれている。風邪が身体の偏りや疲労の調整を行っていることは事実である。風邪のあと、人は蛇が皮を脱いだようにさっぱりした新鮮な顔つきになる」。
「健康な身体には弾力があるが、偏った疲労が潜在していると硬くなって伸び縮みの幅がなくなってくる。一番硬くなったときは死ぬ時だ。風邪を引くと、鈍い身体が一応弾力を回復する。高血圧の人は血管が柔らかくなってきて血圧が下がってくる。風邪を引くとリウマチが良くなる」。
 つまり、「風邪は病気と言うよりも、風邪自体が治療行為ではなかろうかと思う」と野口さんはいう。
 くしゃみをして風邪を引いた、と思うのでなく、くしゃみのたびに風邪が身体のゆがみを直して通り過ぎていくと考えた方が良い、と。
「風邪とか下痢というのは、一番身体を保つに重要な事で、軽いうちに何度もやるほうがいい」。
「敏感な人ほど早く風邪を引く。滅多に引かない人は、本当に頑丈な人か、身体の鈍い人である。こういう人が急に重い病気になりがちだ。」
「風邪をきっちり治せば、風邪は鈍った身体に対する特効薬であるが、風邪の治療に工夫をし過ぎた人は、風邪が完全に経過しないまま治してしまうことばかり考えるから、ゆがみをそのままにして、また風邪を引く」。つまり、じたばたしていろんな薬をのむ筆者のことか!
 野口さんは、25年前に亡くなられているが、整体で治療を施すとき「風邪ほどやっかいなものはない」と述懐されてる。この本では、治療について、風呂の入り方なども書かれているが、専門外の筆者がお伝えすることは出来ない。風邪への考え方だけをご紹介する。


社団法人整体協会 東京支部 世田谷区瀬田1−9−7   tel:03−3700−2777

写真(上) 寒風に身体を硬くしてマスクの人が多い
写真(下) 野口晴哉著「風邪の効用」ちくま文庫

オリンパスE−P1 ズイコーデジタル 12ミリ−45ミリ
close
mail ishiguro kenji