第152回 目を開けていると見えなくて、目を閉じていると見えるものは? 浅草版「くるみ割り人形」
1月25日号
  目を開けているときは見えなくて、目を閉じているとき見るものはなに? あまり簡単なクイズだから早速答を言ってしまいましょう。それは「夢」です。
 しかし最近は、目を見開いたまま、とんでもない甘い夢や悪い夢を見ている人もいて、一方、眠っても夢など見たくないという人もいるようですから、このなぞなぞは時代遅れになってしまったのかも知れません。
 夢なしの人生ほど堅実な生き方はないでしょう。もし本当にわずかな夢も持たずに一生を送ることができたら、です。
 「くるみ割り人形」を抱えた少女は、「行ってみるかい?」といわれて、ちゅうちょなく夢の中へ入っていきました。しばらくは彼女と一緒に少女の夢の世界へ出かけてみてはいかがでしょうか。
 原作の「くるみ割り人形と二十日ねずみの王」は、1816年、ドイツの作家E・T・A・ホフマンによって書かれました。この童話をもとに、「三銃士」のA・デュマが小説を書き、その小説からバレエが構想されて、チャイコフスキーが作曲。われわれがいま親しんでいるのは、このバレエ組曲です。初演は1892年、ロシアのサンクトペテルベルグでした。
 以来、「くるみ割り人形」は、多くの國で、時代とともにさまざまに変化しながら上演されてきました。日本でも、1979年、寺山修司がサンリオの人形劇映画のためにシナリオを書きました。その後、岸田理生が舞台のために脚色しましたが、上演されることがなく、寺山没後20年の今年、プロジェクト・ニクス第8回公演としてよみがえることになったのです。実に最初の原作が書かれてから200年近く、まるで夢のような話です。
 この間に「くるみ割り人形」はさらに変りました。主役の少女クララは、単に〈少女〉となり、寺山台本にはチャイコフスキーの曲が流れる指定が2カ所ほどありましたが、今回の音楽は黒色すみれが担当。32人の女優+3人のオカマによる不思議なファンタジー歌劇となりました。劇団天井桟敷で寺山さんと仕事をしてきた宇野亜喜良さんが美術と構成を。「20年ぶりです。埋もれていた作品ですから」と思い入れもひとしおのようです。演出はニクス代表の水嶋カンナさん。
 変身をくりかえした「くるみ割り」。しかしただ一つ200年変わらないテーマがあります。それは「夢の中へ出かけてみよう!」です。夢なしでは半日も過ごせなかった少年少女のころへ!


■「くるみ割り人形」浅草版
吉祥寺シアター1月30日まで 前売り4000円 当日5000円 学生シート3500円 問い合わせ:Tel 03-6312-7031

写真(大) くるみ割り人形と夢の中へ(今村美乃さん)
写真(小上) 時計仕掛けの人形や動物も踊る(中央はSaLiさん)
写真(小中) 舟に乗って登場する「黒色すみれ」の2人
写真(小下) ネズミの女王とタンゴを踊る砂男の水嶋カンナさん(左)

オリンパス E-5 ズイコーデジタル14−54ミリ 50−200ミリリ
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