第148回 希望は残っているか? パンドラの壺の底に
11月25日号
  全能の神ゼウスは、権力をほしいままに、わがままな横車やごり押しを続けていました。あるとき、決定事項を鶴の一声でひっくり返された、スタッフのプロメティウスという神が、兼ねての不満をはらそうと一計を案じました。2種類の牛肉を神と人間に選ばせることを考え、硬い肉をゼウスに饗したのです。ゼウスは怒り、人間どもにおいしい肉料理を食べさせてたまるかと、火の使用を全面禁止してしまいました。(ギリシャ神話のお話ですが、つい先ごろ日本シリーズの期間中、スポーツ紙の第1面を独占した話題にどこか似ています。)
 プロメティウスは反骨精神の持ち主らしく、火の私物化は許せない、と奪い返して人間に与えました。火は、人間世界に文明の開化をもたらしました。
 しかし、ゼウスは黙っていません。捕らえて懲らしめたいが、何か不正を握られていて暴露される恐れもあるから、うっかり手を出せない。そこで、美女パンドラに壺を持たせて送り込みます。ちなみに、パンはすべて、ドラは贈り物の意味だそうです。
 パンドラは、決して開けてはいけないと云われていた壺を開けてしまいます。たちまち黒煙とともに、戦争、疫病、貧困、格差、饑餓、残虐、憎悪とありとあらゆる悪が飛び散って、世界中に広がってしまった・・・。
 ギリシャ神話は欧米の文化の底流を流れている。と阿刀田高氏は、著書「私のギリシャ神話」の中でくり返し述べられています。遠い日本にも、オリンピックやマラソンをはじめ、エロス(英語ではキューピット)アフロディテ(ビーナス)からモルヒネに至るまで、ギリシャ語は深く入り込んでいます。何より、ギリシャ神話と日本のアマテラス神話は驚くほど似ています。
 ギリシャ観光は世界的に人気があり、特に日本人には親しみとあこがれがあるのでしょうか、エーゲ海の島々を訪れる方も多い。
 パンドラの壺の話には続きがあります。彼女は悪が飛び散るのを見て慌てて壺のふたをします。かろうじて壺の底にたった一つ残ったものがありました。それは《希望》でした。
 ギリシャ料理を食べに行きました。エーゲ海の青と白い壁をイメージした店内で、ふと考えました。連日、ギリシャ関連の決して明るくないニュースが流れていますが、果たして《希望》は、私たち人間にいまも残されているのでしょうか。それとも未来永劫、壺の底に閉じ込められたまま、と解釈すべきなのでしょうか。

■ギリシャ料理を食べに行く
写真(上) ギリシャ料理の定番「ムサカ」¥1,700.なす、ポテト、ミートソース、ベシャメルソースなどを煮込む。ラザーニアの原型。ワインは松ヤニのエキスの入った「レッツィーナオブアッテッカ」を。グラス¥800.ボトル¥4,000.ロックの氷が溶けると白く濁る38度の「ウーゾ」はロック¥700.ボトル4,500.

写真(下) ランチ(11時半〜2時) ギリシャ・サラダ+ピタパン ¥800. 他に本日のパスタ+ピタパン¥900.など。

■六本木「スピローズ」 港区六本木3-15-24 tel:03-3796-2677 日曜休み

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