第146回 料理をナビゲーションするフライパン Panaviパナビ 開発進行中
10月25日号
  食べることが大好きで、料理もしたいと思っている人でも、いざキッチンに立つとなかなか思うようにいかない。たとえば、初めてホットケーキを焼いたときは崩れて形にならなず、2度目には固まったが黒こげの太ったバナナ状態。丸くておいしそうに出来たのはようやく3回目。先号でご紹介した「食のなでしこ」グランプリの生井みづきさんも、そうだった。
 彼女は、慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究所のリサーチャーである。他の人もこんな失敗をするものなのか、調査をはじめた。プロの調理も観察した。そして、料理の初心者のための、温度管理と料理の動作をサポートするシステムの開発を思いついた。
 たとえば、スパゲッティ・カルボナーラ。まず麺の堅さ、チーズの溶け具合、特に卵の焼き加減が難しい。
 コンピュータエンジニアリングを応用したデザインを手がける瓜生大輔さんと共同で、専用のフライパンと、フライパンから送られてくる情報を処理するコンピュータ・システムを作り上げた。フライパンには温度センサーが組み込まれ、持ち手には加速度センサー、振動モーター、無線通信の基盤などが入っていて、プロジェクション・システムから料理の上に温度や振動の矢印がLEDで投影される。タッチデスプレイには専用のレシピが表示されて、普通の鍋を使うときでも、たとえば、《ゆでる:パスタと塩を投入する》にタッチすれば、タイマーがスタートして6分後に知らせてくれる。
日吉の研究室へ伺って、質問した。
−−このフライパンでは、焼く、炒めるだけで、料理が制限されませんか? 肝心な味つけは?
「ご飯を炊いたり野菜をゆでたり出来るような鍋も開発しています。味も、センサーを増やして、塩加減などもナビ出来るように考えています」
−−中華では、たった一つの鍋でほとんどの料理を作ります。しかも非常に強い火で。温度や振動の管理などありません。ある料理人は、『火炎放射器を持った料理の神様と格闘している』といい、『重い鍋との格闘技だ』と表現する人もいました。カーナビで道を覚えられなくなるように、ナビ頼りでは料理を覚えられないのでは?
「プロが経験的に身につけている感覚と技を学習することを支援して、毎日繰り返すことで、調理者自身がスキルアップしていくことが可能だと考えています」
−−いま、放射能や残留農薬、添加物はもちろん、ホルモンの問題も出てきました。何をどう食べるか、難しい時代です。
「私たちが自分で考えて自分で楽しくおいしい料理を作ることが大切だと思っています。panaviは、家庭のキッチンでプロの味わいを再現するためのフライパンをめざしています」

■写真
パナビ開発中。生井みづきさんと瓜生大輔さん。(慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究室にて)。
アルミニウム製のフライパンには温度センサーが入っている。持ち手には加速度センサー、振動モーター、無線通信基盤などが入っている。

オリンパスE−5 ズイコーデジタル 12−60ミリ
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