第143回 ヨコハマトリエンナーレ2011はおいしい@
新しい世界の予感を  総合ディレクター逢坂恵理子さんインタビュー

9月10日号
  3月11日の午後、逢坂さんは、東京有楽町の高層ビルにいた。3時からのヨコハマトリエンナーレ2011の記者発表のためである。準備も終わり、記者たちもすでに大勢集まっていた。
 2時46分。「20階は立てないほど揺れました」。記者発表は中止。エレベーターは止まり、帰宅したのは翌午前2時を過ぎていた。
 ヨコトリは予定通りできるのか? 「1ヶ月後、組織委員会会長の林文子横浜市長が、予定通り実施、と宣言。その間にも世界中からEメールが届き、アーチストたちに励まされました」。
 しかし、総合ディレクター逢坂さんは眠れない日が続くことになった。世界中から作品を集める、その輸送保険料が高騰。資材も復興にまわった。その上国際交流基金が事業仕分けで主催に加わらなくなったので、運営組織から作らなければならず、人手が足りない。「人生でこんな苦労は初めてでしたが、あの被災地の様子を見たら、開催できることがありがたい」
 今回の記事・取材を企画したのは理由がある。今年9月11日は、ニューヨーク貿易センタービルの崩壊事件から10年になる。あれから世界は変わり、アメリカングローバリゼーションが加速した。しかし、今年の3,11から、世界はもう一つの曲がり角を迎えたのではないか。時代を超越しながら、時代を背負い、時代と戦うアーチストたちは、どのように感じているのか、と知りたかった。
 逢坂さんは、今年3月より前に、アーチスティック・ディレクターの三木あき子さんとともに、今度のテーマを決めていた。「《OUR MAGIC HOUR−世界はどこまで知ることができるか?−》です。今まで私たち人間は、たとえば遺伝子の操作もできる世の中になって、何でも自分の手の中に納めることができるという傲慢さがあったと思います。しかし世界は人間の知識では理解も予測もできないほど奥深い。超現実や神話・伝説に象徴されるような不思議な複雑さに着目しました。3,11はそのことを強く教えてくれたと思います。また、パソコンなど個の世界から、他者がいる共同の世界、量より質の世界があることも」。
 新しい世界は私たちの前にどのように広がるのだろう。ヨコトリにはっきりした答えはないかも知れない。しかしアーチストの予感を共感することはできるだろう。
 次回はヨコトリにつながる新しい街歩きをご紹介します。

■第4回ヨコハマトリエンナーレ2011 会場・横浜美術館・日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)・その他周辺地域 会場間の無料バス有り 11月6日まで

 
写真(上) 横浜美術館の前庭に並ぶ12の顔。あなたに似た顔がきっとあります。(ウーゴ・ロンディノーネ作)
写真(下) 総合ディレクター逢坂恵理子さん(イン・シウジェンの作品の前で)

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