第141回 石垣島のアンガマ
8月10日号
  真っ暗な細い路地を行列の後についていく。行列は、編み笠をかぶり手拭いで覆面、さらにサングラスで目も隠した娘たちです。太鼓や三線を鳴らし、ホーイホイと掛け声をかけながら民家の庭へ入っていきます。すでに庭は人であふれ、開け放したお座敷の縁側に群がっています。ひとびとの頭越しに見ると、あの世から来たという翁と媼の面をかぶった二人がお座敷に上がって、飾られたトートーメーという祖霊に挨拶し、その後は、花子(ファー)とよばれる娘たちが踊り始めます。舟を漕ぐ振りや戦いの踊りです。おわると、翁との珍問答が始まります。笑いが絶えないのですが現地の言葉なので全く分かリません。「あの世からどうやって来たんですか?」「そりゃ、宇宙船とタクシーだよ」というようなものから、人の生と死の面白おかしいやりとりだそうです。一時間ほどで、また次の訪問先へ移っていきます。
 旧盆の3日間、石垣島の各地で行われるアンガマ。仕切っているのは地元の青年会とのことですが、こんなに明るく愉快で、しかもしっかり祖先と親しむお盆は、さすが南の島だと思います。
 アンガマ踊りは、沖縄各地に広く伝わる盆踊りの1種です。西表島の祖納の「節祭」でミリク神が連れてくるファーたちが踊るアンガマ踊りが1番原型に近いように思われます。 今年の夏休みは、大きな自然を求めて、沖縄の島々への旅行が人気のようです。いや、夏のずっと前から、八重山諸島への移住が若い人たちの1種のあこがれでもあるようです。
 石垣島に伝わる民話にこんな話があります。白保の海で3人の漁師が漁をしていると、頭は人間で尻っぽは魚というものが網にかかった。そして、「私は急いで竜宮へ帰らなければなりません。助けてくれたら、お礼に知っていることを教えます」といい、「4月24日に津波がきます」という。3人は村へ帰って知らせたが誰も本気にしない。ついにその日が来て、白保はすべて流され、3人だけが生き残った。・・・明和8年(約230年前)の、大津波を伝える民話です。
 今年のアンガマで、翁が語って聞かせてくれるかも知れません。

 
写真(大) ウシュマイ(翁)は、ンミー(媼)とともにあの世から来た祖霊だという。お盆の3日間、家庭を訪問する。
写真(下) 踊る花子(ファー)。顔を隠すのは、見られるとあの世へ連れて行かれるからだという。

オリンパスE−5 ズイコーデジタル 12−60ミリ
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