第139回 私を食べてください 9・11から3・11へ B布施
7月10日号
   原発シニア決死隊(福島原発暴発阻止行動プロジェクト)のことを、テレビもだんだん取り上げるようになった。3月11日以来、明るいニュースに飢えていた私たちは、久しぶりに心が温まる気がしたのだ。
 提案した山田恭暉さんの「結成へ向けて」を要約しよう。
「暴発を防ぐには、10年単位の時間、安定して作動する冷却装置を保守・運転しなければならないが、このためには数千人の訓練された有能な作業者が必要だ。しかし、現場はすでに高度に放射能に汚染されている。現在のような下請け、孫請けによる場当たり的な作業員集めで、数分間の仕事をして戻ってくるというようなことでできる仕事ではない。そこで、最も放射能の害が少なくてすみ、作業や技術の能力を蓄積してきた退役者たちが、次の世帯に負の遺産を残さないためにボランティアによる行動隊を作ることを提案する」。
 1,参加者を募集。条件は60歳以上で現場作業に耐える体力と経験があること。
 2,行動隊を作ることに賛同・応援者を募集。
 原発の現場では、すでに許容量を超えて被爆した若い作業員が続出している。60歳なら、細胞分裂も緩やかで放射能に対する感受性が弱い。ガンの発生の影響は20年後だそうだから、冗談だがちょうど良いともいえる(笑)。そしてなにより、まだ十分に体力も知能も充実している。読者の中にも、できれば自分も参加したい、専門知識はないが、がれきの片付けぐらいなら、と思う人は多いはずだ。
 7月5日現在、行動隊参加者は420人。大学教授や大型クレーン運転手など、原発にずっと反対してきた京都大学の小出助教も参加した。残念ながら、原発推進者だった人の名はまだないようだ。賛同・応援者は1330人、カンパ530万円余が集まったという。
 山田恭暉さんは72歳。東大工学部卒。60年安保の学生リーダーで、社会主義学生同盟の副委員長だったという。が、かつての闘士は今は柔軟で、何より悲壮感のないのがいい。(決死隊はマスコミがつけた)。山田さんは、この行動隊は、政府がとりあげた時は解散して、新しい組織の一員になればいいという。
 9・11の時、当時のブッシュ大統領と肩を組んだ消防団の映像を思い出した。どちらが奉仕を申し出たのか、一躍ヒーローになって、テロとの戦いに全米が走った。日本にはこのような犠牲とか慈善はなじまない、と思って、河上師にもう一度聞いてみた。
 河上師は仏教説話「ジャータカ物語」に出てくるウサギの話を教えてくれた。
「ウサギとクマとキツネが、飢えて死にそうになっている仙人と出会い、クマは自分で獲った魚を、キツネは見つけて来た木の実を、仙人に差し出します。
 何も差し出すものがないウサギは、仙人に焚き火をするように伝えて火をおこさせ、自分を食べてくださいと、その火の中に身を投げました。うさぎはそうして月に昇っていきました。手塚治虫の「ブッダ」の冒頭にも出てくるお話です」。えーっ、そんな馬鹿な、あり得ない。と思わずつぶやいてしまった。
「身を捧げたうさぎは、自分が犠牲となって、何かのための生贄となったわけではありません。自分からその命を「布施」したのです。ギブ・アンド・テイクのような、何かの見返りを求めて差し出される「奉仕(サービス)とか犠牲(サクリファイ)」ではなく、上から目線の慈善(チャリティ)でもありません」。
 河上師は浄土真宗本願寺派・富山市の琳空山慶集寺の住職である。若いときはいっぱしのヒッピーぶりで、ジャマイカやインドを放浪した。「今度の災害に、仏教が何も発言しないのはおかしい」との非難があるが、と伝えると、「仏教界に対するご意見は、その通りです。3・11以降、日々、私なりの行動を続けています。「虚の時代」から「実の時代」になるのだと信じています」。


3.11後、生き方を考え直すという人はNHK調べで、38%
 
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