第135回 メディアの分離 情報の分裂
4月25日号
   若い友人がメールで、「原発反対デモがあるから行こうと思っています」と書いてきた。URLが示されていたのでクリックしてみると、「4月10日・高円寺南口・中央公園・2時集会・3時デモ行進出発」と出ている。
 JR高円寺駅から歩いて2分の中央公園に30分前に着いた。人影はまばらで、家族連れがお弁当を広げている。場所を間違えたかと思ったが、公園の回りを警官がびっしり並んでとり囲んでいるから、集会はここなのだろう。ものものしさと、のんびりさと、不思議な違和感が漂う。
 若い友人が、奥さんと子供といっしょにやってきた。彼もカメラマンだからカメラを持っているが、仕事ではなく家族メーデーののりだ。「大人はともかく子供がねえ」「うちは小学1年ですが、まだ赤ん坊の親連中は本気で東京脱出を考えていますよ」などと話しているうちに、気がつけば回りは人がいっぱいになってきた。楽器を持ったり防毒マスクの面をかぶったり、いろいろだ。
 なんとなく集会が始まり、挨拶に立った男が、「今日の呼びかけはインターネットだけで、どれくらいの方が参加されるかわかりませんが、お巡りさんが交通整理をしてくださるので・・・、お巡りさんが多くて反発を感じた方もいるかも知れないが、お巡りさんも個人的には原発は危ないと思っている方も多いと思います」などといって拍手喝采だ。かつて安保反対のデモを見聞きしたものには、どうにも締まらない集会に思える。アジ演説がないばかりか「おれはこんな集会には反対です」という男が挨拶に立ち、いくつかの野次で引っ込んでいく。どうやら、原発廃止には10年も20年もかかる、といいたかったらしい。
 その間にも人々は続々と集まってきて、会場は身動きもとれないほどになってきた。若い友人をはじめ、撮影に余念のない人も多いが、NHKとか、キイ局、大新聞のカメラはない。小振りのムービーカメラで撮っているのはネットのニュースの取材班らしい。彼らも興奮して、「すごい! みんなネットできたんですんね」「チュニジアもエジプトもこうして始まったんだなあ」「中国なら全員逮捕ですよ」などと話している。確かに、この集会の呼びかけは、リサイクルショップを経営する人で、いろいろなデモを企画した経験者というが、告知はネットだけで、とくに動員の組織があるわけでもないようだ。
 妊婦代表の挨拶のあとは、バンド演奏があって、デモ行進が始まった。公園から駅までの道は完全に人で埋まり、デモ行進は延々と続いて、駅周辺は陽が落ちてからも騒然としていた。
 いま、原発反対のデモはあちこちでたくさん行われているらしい。らしいというのは、TVも新聞もスルーだから(無視して報道しないことを彼らはスルーという)ネットでしかわからないからだ。一方、若い彼らは、新聞を読まずテレビも映画以外は見ない。信用できないからだという。池上さんはわかりやすく解説するが原発反対とは言わない。いえば干されるからだという。だから見ない。ネットだって、いかがわしい情報には事欠かないと思うが、こうして、日本は、いま情報の分裂が起きているのだ。まるで言語が2つ、のように。

写真 ネットで「原発反対」の呼びかけに大勢の人が集まった(高円寺・南口・中央公園にて)

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