第128回 琉球弧の夢と希望
1月10日号
   明けましておめでとうございます。
 今年も、沖縄・八重山から新年のご挨拶をさせていただきます。
 まず、ふたりの乙女たちの写真について説明をさせてください。一人は与那国島の「窓から台湾が見える」民宿の娘さんで、過酷で重要な働き手でした。もう一人は、彼女の親友で、兄の経営するスナックを手伝いながら、三線を習っていました。
 この写真を撮ったのは随分以前、雑誌の仕事で与那国島へ行ったときに、モデルになってもらったのです。背景が全部海になるように、崖の上の牧場で撮影したことを思い出します。ふたりともご覧のように、漆黒の髪と黒目がちの瞳を持った美しい娘たちでした。しかし、その強い視線は、彼女たちの胸の奥の不安と憂いをたっぷり含んでいることに気づかないわけにはいきません。
 与那国島は日本最西端の島で、石垣島よりも台湾の方が近い。昔から渡航が困難で、どなん(渡難)島とも言われてきました。人口は、2010年現在1605人。年々過疎化が激しくなっています。(台湾との交易があったころは2万人を超えていたといいます)
 さて、最近のニュースは、北朝鮮の暴走、尖閣諸島を巡る中国の傲慢ぶりなど、尋常ではありません。加えてアメリカの対応ぶりは、それ見たことかと言わんばかり、原子力空母ジョージ・ワシントンをはじめ6隻の空母を日本海に浮かべて、はっきりと中国を意識した統合エア・シー・バトル構想を打ち出しました。それらすべてのあおりをまともに受けて、ドロをかぶっているのが琉球弧の島々です。
 尖閣問題のあとでも、中国の調査船が日が暮れるころに島の岸すれすれまで近づいてくる。いきなり中国人が上陸してきて、尖閣諸島のような領土問題になるおそれもないとはいえない情況です。与那国島町議会では、すでに自衛隊誘致を決議しました。現在の警備体制、警官2名、拳銃2丁では、島の安全は守れないということ、そしてなにより島の活性化を狙ってのことです。政府は、昨年の閣議で与那国へ200人規模の陸上部隊の配備を決めたようです。
 与那国は、日本は、どこへ行こうとしているのでしょうか。
 昨年亡くなった劇作家のつかこうへいさんは、日本の演劇を変えたといわれるほどの存在でしたが、在日韓国人として、祖国への思いを、娘へ語る著作の中で、「祖国とは、おまえの美しさのことだ」と書いています。
 与那国の娘たちの美しさを守るために、われわれはどうすべきなのでしょうか。
  去年(こぞ)今年
  貫く棒のようなもの
 正岡子規を看取った弟子の高浜虚子の晩年の句です。昨年からわれわれが背負ってきたとんでもない大きな棒のようなもの、・・・・それは太くたくましい希望という棒でなければならないと思います。

ニコンF2 ニッコール80mm F:2.8
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