第122回 劇場と街をひとつに 三茶de大道芸の挑戦
10月10日号
   三軒茶屋といえば、いま都内で最も注目のスポットです。吉祥寺、自由が丘と並んで「住みたい町」に常にランキングされているのですが、それには理由があります。先ず、都会生活に欠かせない交通の便。田園都市線=半蔵門線は渋谷まで数分。1度は乗ってみたいかわいい電車・世田谷線はミドル世田谷の方へ。バスはディープ世田谷へ、渋谷へ、下北沢へと数珠つなぎです。
 江戸中期、国道246(元大山道)が世田谷通り(元登戸道)と別れる分岐点に、信楽、角屋、田中屋の三軒の茶屋が並んでいたことからこの名で呼ばれることになったそうですが、現代の三茶もコーヒーショップやカフェが並んでいて、賑やかで楽しく、気のおけない町の雰囲気はいまでもほとんど変わっていないのではないかと思われます。
 街が若いのは、昭和女子大があるからでしょうか。大きなスーパーがあり、ライブハウスがあり、おいしいおそば屋さんがあり、2本立て1000円の映画館が2軒もあります。
 そして、実はこれこそ三茶の魅力を奥深いもの(?)にしていると思うのは、246と世田谷通りに挟まれた三角地帯の奥に、再開発が急にストップして取り残されたような飲み屋街です。行き止まりもある路地は初めての人で迷子にならない人はいない。吉祥寺のハモニカ横町をはるかにしのぐカスパぶりです。その真ん中にそびえる煙突はお風呂屋さんのしるし。千代の湯の文字も見える。しかし行けども行けどもたどり着かないカフカの城のようです。興味のある方はぜひ挑戦してください。
 このような魅力いっぱいの街に再開発の波が来たのは1990年に入ってからでした。にんじん色の26階建て官民複合ビルが完成し、600席の劇場も併設されました。その時、「劇場と街をつなげよう」さらに「三茶の街を劇場にしよう」と地元商店街とボランティアと世田谷文化生活情報センターがいっしょになって「三茶de大道芸」が企画され、1997年にスタートしたのだそうです。
 劇場と図書館(または大きな書店)のない町は町とはいえないと思っていましたが、三茶は、一歩先を行って「劇場と街を一つに」と理想を目指したわけです。
 今年で14回目になる「三茶de大道芸」はフランス、イギリス、オランダ、カナダ、中国など世界からの参加と、日本の選ばれた大道芸人が、空中ブランコ、アクロバット、歩き回るウオーキングアクトなど、街中のいたるところに出没してパフォーマンスを競う。定点12会場のうち、商店会が11カ所、残りをパブリックセンターがハンドリングしているという。その他にも、路上ギャラリー、フリーマーケット、屋台も出現して、2日間で約17万人を集めるイベントになったそうです。
 筆者は昨年10月、ぶらりと訪れた三茶の駅前プラザで、「だいち」のパフォーマンスを見たのですが、演目のおもしろさよりも、最後に見せるパントマイムが踊るようで、哀愁があり、感動的でした。沖縄に生まれ、20歳の時大道芸に出会い、上京して路上で芸を磨いてきたといいます。今年も出場するそうですから、1年たって彼の芸がどのように深化したか、楽しみです。実は、「だいち」くんのメッセージを聞きたかったのですが、7日よりソウルのドーヤンフェスティバルに参加するため時間がなく、「まとめようとしたが、「超論文になってしまうというか、綺麗にまとめることができないし、適当に書くのもいやなので、今回は書けません。」という返事。次回をお楽しみに。




写真(大)カスパの路地
写真(小上)スズラン街
写真(小中)「だいち」のパフォーマンス
写真(小下-左)おなじみとなったミニサーカス「シルク バロック」(フランス)/ (右)千代の湯の煙突

■「三茶de大道芸」は、10月16(土)17日(日) パブリックシアターと駅周辺・商店街のいたる所で。12時から20時まで。
  問い合わせは03-5432-1547まで。

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