第116回 EVタクシー実証試験 試乗記
7月10日号
   ボデーに森の中の風車が回るイラストを描いたタクシーに乗る。1ブロックを走って、鉄橋のようなブースに入り、レーンの途中で停車。床下でなにやらごそごそしていたが、1分後また走り出した。
 たった10分足らずの試乗だったが、実に様々な問題提起を含んでいた。以下そのご報告です。
 東京のタクシーは約5万台。車全体からいえば2%に過ぎないが、走行距離で見ると20%になる。このことは、タクシーを仮に全部電気自動車にすると、CO2を20%削減できる計算になる。
 問題はバッテリーだ。1回の充電で走れるのは80キロぐらい、そのつど急速充電でも30分かかるのでは営業が成り立たない。
 EVは、省エネで環境に良く、静かで燃費もキロあたり約2円と、いいことずくめだが、実は大きな難問を抱え、そのほとんどはバッテリー問題だ。このことは、くるま社会全体に革命が起こりつつある、とさえいえるだろう。要は、価格的にも重量でも車全体の約半分を占めるバッテリーを、個人所有とするのか、レンタルで、走る距離だけ払うのか、EVゼロ年のいま、決定を迫られている、と考えられる。
 試乗の途中で床下がごそごそしたのは、250キロのバッテリーを丸ごと交換する音だった。約1分。給油より短時間だ。これならタクシーも営業が続けられる。
 デンマークとイスラエルでは、交換式を採用して、来年から本格的な操業を始めるという。両国とも石油を産出しない、国土が狭いなどがかえって好条件となった。デンマークではガソリン車は180%課税され、EV車は0%だというから普及は急速に進むだろう。
 石油で動く車は、エンジンはじめ膨大な開発資金を必要としたが、EVは、小さな町工場でも中古のボディに8-10個の部品を組み合わせてユニークな車を作る実例がたくさん紹介されている。巨大自動車会社、日本でもハイブリッド車に開発費をつぎ込んだ会社は、EV 化に遅れがちだ。
 イスラエルで生まれたアイデアを日本の技術で、経産省資源エネルギー庁のプロジェクトの資金を使って、実験がスタートした。ベタープレイスジャパン社長藤井清孝氏は、著書「グローバル・イノベーション」(朝日新聞出版)の中で述べている。「東京のタクシーはロンドン、パリ、ニューヨークを合わせた数より多い。成田や羽田に到着した世界からの顧客が都心に向かうタクシーに乗るとき、全部電気自動車になっている情景を想像してみよう。「さすが日本!」の声が聞こえてきそうではないか!」
 現在、EVタクシーは日本交通の運営する3台。六本木ヒルズの専用の発着所から乗ることが出来る。



写真(上) 虎ノ門の世界最初のEV バッテリー交換ステーション
写真(中) ベタープレイスジャパン社長藤井清孝氏
写真(下左) 重量250キロのバッテリーを1分で交換する。車の後ろに排気管がない。
写真(下右) ボンネットの中にはモーターとインバーター。

オリンパスE−P1P1 ズイコーデジタル 14−42ミリ
close
mail ishiguro kenji