第113回 私はかもめ チェーホフ生誕150周年
5月10日号
   チェーホフ。
 この頃、あちこちで久しぶりに聞く名前だ。今年は生誕150周年だそうである。4大戯曲、「ワーニャ伯父さん」「三人姉妹」「かもめ」「桜の園」ときけば、思い出される方も多いだろう。特に、有名なセリフ〈私はかもめ・・・私は女優・・・〉をきけば、自分の青春時代を振り返って懐かしむ人もおられるはずだ。
 チェーホフは、1960年、革命前夜のロシアの港町で生まれた。もとは農奴だったが、祖父が金を積んで自由を買い取ったという。古い秩序が新しい世代によって大きく転換していく時代だった。16才の時父が破産してモスクワへ移った。チェ−ホフが小説を書き始めたのは、一家の厳しい家計を切り抜けるためだった。
 短編小説や戯曲の成功で、ロシアを代表する作家となったが、1904年、結核で死亡。「桜の園」の初演の成功から半年後、44才だった。
 4大戯曲の一つ、「かもめ」が上演されると聞いてけいこ場を訪ねた。100年前に書かれた原作戯曲を演出の高田拓土彦さんが、現代の人にもわかりやすいエンタティンメントに仕立てて、大胆に脚色したという。
 JR鶴見線の鶴見小野駅を出て5分、改装中の5階建ての大きなビルに入ると、空き部屋を使って稽古中だった。ロシアの地方の湖を背景にした屋敷で、旧世代を代表する領主と大女優に対し、改革を試みながら作家を目ざす大女優の息子トレ−プレフ(椿隆彦くん)と、湖のかもめのように自然で自由な娘ニーナ(多田あさみさん)との最後のシーンが演じられていた。大詰め近く、多田さんが「私は−かもめ・・・・。そうじゃない。私は−女優なの! 」と叫んで去っていく。椿くんは書き上げた原稿をすべて破り捨て、銃を自分に向けて発砲する・・・。
 見る人に激しく迫るラストだが、二人のセリフ、特にトレープレフが何を言っているのかわからない。きけば、椿くんは仮面ライダーの剣崎一真役で活躍した人気俳優だが、オンドウル語を発することでも有名らしい。オンドウル語は聞き取りにくいセリフのことで、「オンドウルルラギッタンディスカー」と聞こえるセリフが、実は〈ほんとうに裏切ったんですか−?!〉の意味だということから名付けられたそうだ。熱演、絶叫調になればなおのことオンドウル語連発となる。発声法の訓練が足りなかったのか。これはグラビヤのビッグアイドルの多田さんも同じだ。たとえ棒読みでも、言っていることの意味が通じた方がましだと思うのだが。
 しかし心配は無用。高田さんの指導で、アイドルの2人は急成長すること間違いなしだ。六舎会の訓練された俳優たちがしっかり脇を固めて支えている。


写真(上) 六舎企画のメンバーたち 中央(ピストルを持っている)が脚本・演出の高田拓土彦さん。右から2人目が代表で俳優の小山直樹さん。
写真(下) 「かもめ」のチラシ
■「かもめ」は、東京・両国の「シアターXカイ」で5月16日まで。
チケットぴあ(tel:0570-02-9999)、ローソンチケット(tel:0570-084-003)前売り4,000円、当日4,500円
■「シアターXカイ」墨田区両国2-10-14 tel:03-5624-1181

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