第110回  モリムラって誰? 「なにものかへのレクイエム」展
3月25日号
   JR恵比寿駅から恵比寿ガーデンプレイスへの長い廊下を、動く歩道に乗っていくと、精力的なピカソの肖像とともに、「ピカソとしてのモリムラ」と書いた看板。10メートル進むと、鼻ひげをおっ立てた「ダリとしてのモリムラ」。最後は「モリムラって誰?」。
 モリムラって何者なのか、ご一緒に「森村泰昌 なにものかへのレクイエム」を見に行きましょう。
 写真美術館の2階にあがると、ホールに大きなスクリーンが張られていて、あの三島由紀夫が、軍服、白手袋、はちまき姿で、なにやら叫んでいる。「芸術もまたマスコミに踊らされ・・・コマーシャリズムと売名行為・・・俺の芸術に対する夢はなくなったのだ・・・」
 三島ではない、三島に扮したモリムラなのだ。
 モリムラは、1985年、ゴッホや、ダヴィンチ、ゴヤなどの名画に扮した自画像で鮮烈なデビューを果たした。次には、マリリン・モンロー、岩下志麻などに扮した女優シリーズで僕たちをあっと言わせた。そして今度は、20世紀の様々な出来事、ニュースの瞬間を演じてみせる。
 終戦直後の衝撃、天皇陛下とマッカーサーの歴史的会見の記念写真の再現。目をこらしてみなければ両者ともがモリムラだとはわからない。浅沼事件では、浅沼とテロ犯人、さらには周りの人まで、一人3役4役を演じる。この20年の間に、モリムラのセルフ・ポートレートの技術は精緻を極めるほどに進化した。こんなにそっくりじゃ本ものと区別がつかないではないか。ということは、本ものを見ればすむことではないのか、と思ってしまうほどです。
 そこで、素朴な疑問。TVの物まね番組はいつも人気で視聴率を稼ぐそうだが、コロッケとどこが違うの? コロッケは筆者も大好きでいつも笑い転げてしまいます。コロッケの人間観察は見事で、造形の巧みさは天才だと思っています。(それにしても、ものまね、そっくりが面白いのはなぜでしょうね)。
 なにものかに扮するという表現行為を、モリムラは「わからないときは、そのわからないもの自身になってみる。そうすれば何かがわかるのではないか」といっています。
 「21世紀は、かつて人々が想像していたような夢の世紀ではないようです。・・・20世紀を振り返り、過去をどう受け継ぎ、未来にどう受け渡すか・・・この関心事を私はレクイエム=鎮魂と呼んでみたいと思いました」
 「三島・・・」の制作中に、スタッフは、モリムラが、バルコニーの演説のあとで自害するのではないかと恐れたという。
 モリムラのからだの中で、20世紀の歴史のわからないなにかが動いているのだ。


写真(上)「ダリとしての私」シューゴアーツ「なにものかへのレクイエム:外伝」展にて。
写真(中左)JR恵比寿駅より写真美術館に向かう廊下にて。
写真(中右))天皇にも、マッカーサーにもなった「思わぬ来客」(東京都写真美術館にて)
写真(下左)写真美術館2階特設スクリーン。
写真(下右)裸の女性にもなる「マルセル・デュシャンとしての私」(東京都写真美術館にて)

■東京都写真美術館 目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内 tel:03-3280-0099
「なにものかへのレクイエム」展(5月9日まで)月曜休館(月曜休日の場合火曜休館) 観覧料 一般1000円 学生800円 65才以上600円
■シューゴアーツ 江東区清澄1-3-2 tel:03-5621-6434
「なにものかへのレクイエム:外伝」展 (制作過程を撮ったポロライドなども展示)
(4月28日まで12:00−19:00オープン)日・月曜、祝日休郎、無料

オリンパスE−P1 ズイコーデジタル 14−42ミリ
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