第104回 あなたがわかる お雑煮の秘密
12月25日号
   あなたの家では、お正月にどんなお雑煮でお祝いされているか、教えてください。あなたの秘密を当てて見せましょう。
 あなたの家のお雑煮が角餅ですまし汁なら、あなたのご家族はもともと関東の方ですね。丸餅で味噌汁なら関西出身でしょう。
 餅が焼いた角か茹でた丸か、分岐点は関ヶ原だそうですが、例外もあります。彦根市は関西だけど角ですまし汁です。 遠州(静岡)出の井伊家の影響で、関東風になったそうです。
 もし丸餅で白みそなら近畿地方のご出身ですね。丸餅だがすまし汁なら中国・四国・九州地方。
 えっ、あずき汁ですか? 分かりました。鳥取・出雲地方ご出身ですね。のりを使っていますか? それなら海沿いの育ち、さらに餅がとち餅なら鳥取の山間部の八頭郡の方です。拾ったとちの実を乾燥させ、谷川に10日間さらしてアクを抜く大変な作業だそうです。もちろんお米の節約のためです。
 とち餅だが、あご出し汁なら福岡、長崎です。  汁の中の餅を取り出し、別皿のきな粉で食べるのは奈良県吉野郡です。きな粉の金色で豊作を! との願いです。
 じゅんさい入りの「儲かる雑煮」を祝うのは、兵庫県三田市の方ですね。池や沼が多く、藻を刈ることからモオカル!  「餅にあんが入っていてびっくり仰天」というのは、香川県高松市の女性と結婚した男性です。しかし丸餅の中身が塩あんなら彼女は天草生まれです。きび餡で、だしにスルメを使っていれば熊本です。
 雑煮に鮎がのっているのは愛媛県大津市です。 「茹でた角餅ともち菜(小松菜)の他は何も入っていないよ」とおっしゃる方は、尾張名古屋のご出身ですね。おそらく日本一シンプルなお雑煮は、質素を旨とした徳川家の影響だといわれています。「うちも負けずにシンプル。味噌汁に茹でた丸餅、かぶらがはいっているだけ」ですって? 福井の方ですか。えっ、「砂糖を入れる」ですって。福井でも敦賀地方ですね。
 お雑煮は男が作る、のは小田原。東京でも八王子と杉並にはまだ伝統が残っているかも知れません。
 民俗学の柳田国男さんは、お雑煮は神様にお供えしたものをいただく直会(なおらい)からきたと説明しています。モチに宿るものは、年神、祖霊、田の神であり、モチは丸く心臓の形をしているといわれます。
 沖縄と北海道では、もともとお雑煮の習慣がなかったそうです。しかし今では、それぞれのふるさとのお雑煮を持ち込んで、百花繚乱。東京、大阪などの都会でも同じです。
 餅なしのお雑煮もあります。長野県の1部です。餅の代わりにうどんなら長野盆地、芋汁なら佐久地方です。ただし昼は餅の雑煮、夕は小豆飯だそうです。2日目まで餅なしなら、本城村八木地区の生まれ。元旦に餅を食べると火事が出て人が亡くなるといういい伝えがあるそうです。お腹の疲れをいやす知恵かも知れませんね。
 新宿の区役所通りの高層ビルの中に、樹木に囲まれた静謐な空間があります。1653年からつづく稲荷鬼王神社です。暮れも押し詰まったころ、境内の掲示板に、全国のお雑煮の写真が並びます。16世大久保直倫宮司に聞きました。「お正月にお雑煮をお供えするのを見た氏子さんが、それぞれの家庭のお雑煮を集め始めたのです。今年は70種以上も集まりました。神社のお供えの雑煮はもちろん関東風の角餅すまし汁ですが、かしわ抜きです。普段は毎日卵をお供えしているので、お正月は鶏に休んで貰うためです」。
 掲示板ではお雑煮の写真とレシピと想いを掲げていて、個人の名前は出していない。お雑煮を詳しく調べていくと、ピンポイントで出身地がわかり、さらに商人の家か、芸人の家か、色街かまで、出自がわかってしまうから、という理由らしいのです。
 「お雑煮は家族でいただくもの。じっくり家庭の幸せを感じてほしいものですね」  良いお年を! 良いお雑煮を!

写真上 新宿歌舞伎町2丁目の稲荷鬼王神社。1653年から大久保村の守り神だった稲荷神社が、1831年に鬼王権現を合祀した。
写真下 350年以上前から伝わるお正月にお供えする雑煮。

オリンパス E−P1 ズイコーレジタル 14−42ミリ

close
mail ishiguro kenji