第100回 王冠をかぶった道化たち
10月25日号
   先週の日曜の午後、画家の友人の個展を見に吉祥寺へ出かけたときです。画廊の場所が井の頭公園通りの、しかも公園の入り口近くでしたから、見終わったあと、つい、階段を下りて池の周りを歩いてみることになりました。ごく自然の成行でした。
 井の頭公園は、東京で最も愛されている公園のような気がします。吉祥寺は、住んでみたい町NO.1だそうですが、その大きな理由はこの公園があるからだと聞きました。なるほど、穏やかですっきりした秋の陽を浴びて散策するカップルや家族たちはみな幸せそうで、日本は平和でいい國なんだなあ、と思ってしまいます。貧困率が、メキシコ、トルコ、アメリカに次いで、世界で悪い方から4番目だなんて、とても信じられません。
 池の周りには、ホビーの作品や趣味の小物を並べたマーケット、画架を立てた日曜画家、ギターをかき鳴らすファミリー楽団、客を寝かせてその上で包丁とリンゴを操るおなじみの大道芸人。それらの中で、5、6人の黒装束の男女が、青いビニールのシートの上で奇妙な動きをしているパフォーマンスの集団を見つけました。横でマイクを握って語っているのが、どうやら座長らしい。見て、聞いていると、「風の谷のナウシカ」「紅の豚」などジブリのアニメ作品のなかのエキサイトシーンをパントマイムで演じている。ほとんど瞬間芸のようなものだが、もの真似とも再現とも違う、感覚的で、しかも笑わせる。
 常日ごろ、TVのバラエティ番組のあまりの下品、愚劣、バカっぷりにへきえきというか、だんだんTVを見なくなっている今日このごろですが(そういう人はけっこう多い。視聴率が軒並み悪いことが証拠です)、これはもしかすると新しい笑いではないか、気になってチラシを見ると、「ちょっと知的な喜劇スマートコメディ《CLOWNCROWN》とある。日本語読みではクラウンクラウンですが、Lの方は道化、Rは王冠だ。渡されたもう1枚のチラシには、「コメディだけじゃない長編演劇」の公演の告知が記されています。ますます気になって、けいこ場を訪ねることにしたのです。
 代表の池田レゴ(練悟)さんは近畿大学・演劇芸能専門コースで学んでいたが、中退して上京、俳優を目指した。「小学生のころから脚本を書いて、生徒を集めて芝居をやっていた(笑)」根っからの演劇人だけど、東京ではさまざまなアルバイトに明け暮れる日々、「22才から10年。《クラウンクラウン》を立ち上げることが出来たのは1年ちょっと前です」。きっかけは、早稲田の「舞夢踏(マイムトウ)」で学んでいた関谷誠さんと出会ったことだという。同じ32才。「パントマイム」+「カツ弁」で上質な笑いを作るチームを作作ろうとしたのが始まりだという。現在、劇団員は20人、主な活動は10人で半数が女性。全員アルバイトをしながら、けい古に集まるのは夕7時過ぎ、終わると日付が変わることもしばしばだといいます。
 さて、長編演劇「ハッピージャンキーレッスン」ですが、「釈迦はシャカりき、キリストはキリキリ幸せを求める」とか「ハラハラどきどきの恋はハラハラと散っていく」などとスマートな(?)しゃれから始まりますが、次第に重いテーマをはらんだシリアス劇として進行します(作・演出は池田レゴ)。新興宗教を立ち上げ、次第に追い詰められ、自壊していく若者たちのさまよう姿を通して、真剣に生きようとする者ほど生きにくいこの國の不幸を描いていきます。
 あの幸せそうな井の頭公園の陽だまりは何だったのか、考えさせられてしまいます。

写真上 井の頭公園でのパフォーマンス。「紅の豚」をパントマイムで。
写真下(左)スマートコメディ劇団「クラウンクラウン」の基礎はパントマイム+活弁だという。右、活弁担当の池田レゴ代表、左、パントマイマーの関谷誠さん。
写真下(右)荻窪・天沼会議室を借りての稽古。
「ハッピージャンキーレッスン」公演は、10月30日、11月1日、櫂スタジオ(武蔵野市吉祥寺南町4−6−1)にて。前売り 2000円、当日2500円。

オリンパス E-30, EP-1 ズイコーレジタル 25ミリF2,8 , 14-42ミリ

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