第86回 アートは時代を映すか 2009年の女性作家たち
3月10日号
六本木の国立新美術館で、今年も「アーチストファイル2009」が開かれています。
新美術館が「新しい美術の動向を紹介することを活動方針としている」ことは、昨年のこの欄で紹介しましたが、「アーチストファイル」は同館の学芸員が世界中から新しい作家を推薦してグループ展の形で開催する、というものです。では、2009年のアートはどんなものか、拝見することにしましょう。  今年紹介されるのは9名のアーチスト。昨年にくらべて、外国人が少ない。(1名のみ・内需拡大ですか?)年齢も幅広くなったようです。(若者志向からの脱却ですか?)絵画、立体、映像、インスタレーション、写真とそろっているけれど、これが新しいアートなのか。多くは3年前、5年前にニューヨークで見た作品群と変わっているとは思えない。
毎度落語の熊さんみたいなことを言ってもうしわけありませんが、アートは時代を超越していながら、しかも時代を色濃く映しているものだと思いますが、果たしてどうでしょうか。
 特徴は、女性アーチストが半数を占めていること。その多くが、人間の内側への内省的な傾向が見られるように思いました。アートの本流に回帰したといえるのでしょうか。
宮永愛子さんの樟脳を使った作品は、日本の、しかも京都に生まれ育った作家の感性が強く感じられます。揮発性の樟脳(ナフタリン)製の美しい靴や時計は、徐々に形を変え、最後には消滅してしまうのです。
  齋藤芽生さんの「四畳半みくじ」は、室内干しの洗濯物の下着の間からおみくじを引くのですが、これが実によく当たる。これほど思い当たるおみくじも珍しいと評判のようです。(200円)
 フランス在住の平川滋子さんは、2003年の1万人が死亡したヨーロッパを襲った熱波を体験して〈空気が危ない〉と地球環境に強く関心を抱くようになり、光合成で色が変化する円盤を樹木に取り付けるインスタレーションを発表。新美術館のテラスの3本の木を、全部で4500枚の円盤で飾りました。 鑑賞の後のレセプションで、同僚のカメラマンが、「平面の作品、特に写真は弱いねえ」とぼやいていました。確かに写真は作品の材質が紙であり立体の存在感にはかなわない。しかし弱いのは、あるものをただ技術的に写しているからではないのか。という訳で、東京都写真美術館のやなぎみわ「マイ・グランドマザーズ」を見に行きました。
やなぎさんが2000年から撮りつづけているこのシリーズは、公募した若い女性が思い描く50年後の自分の姿を撮影したもの。モデルとは徹底的に話し合い、特殊メークを使い、老女を作り上げて描いたものです。ここには50年をタイムスリップしたスリリングな物語があります。「老い」の問題の前に、これからの50年をどう生きるか、濃密な問いにも直面させられます。

写真1 やなぎみわ「マイ・グランドマザーズ」(東京都写真美術館にて・5月10日まで)
月曜休館(5月4日は開館)観覧料 1般800円 学生700円 中高生・65才以上600円

写真2 宮永愛子「凪の届く朝」より
写真3 齋藤芽生「四畳半みくじ」
写真4 平川滋子「光合成の器《空気が危ない》」
(いずれも国立新美術館・アーチストファイル2009)5月6日まで
火曜休館(5月5日は開館)観覧料 1般1000円 大学生500円
(3月28日(土)は六本木アートナイトにともない無料)

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