第84回 女剣戟ここにあり
2月10日号
 東国原宮崎県知事が、「浅香光代? あー、女剣劇のね」といって、浅香は怒った。 「てめえ、思い上ってんじゃあねえよ。女剣劇を下に見やがって!」。
女剣劇の人気は、世の権威にも負けずに啖呵を切る威勢の良さにある。格差と不景気で真っ暗な状況の中を奇怪な《ぬえ》たちがうごめいている現代だから、義理と人情と勧善懲悪、わかりやすい筋書き、颯爽と啖呵を切るすがたに、観客は胸のつかえがおりる快感を味あうわけだ。
2009年が明けてすぐ、両国のシアターX(カイ)で、一条洋子率いる女剣劇「劇団花月」の東京初演が披露された。九州・大牟田を拠点に全国を回る人気劇団だが、東京にお目見えするのは初めてだという。登場の仕方はちょっと複雑で、劇団「にんげん座」の公演「常磐座夢譚」(ときわざゆめものがたり)の中の劇中劇としてのお目見えである。
 常磐座は浅草六区の最古の劇場で、歌舞伎、浅草オペラ、エノケンの軽演劇、ロッパや徳川夢声の「笑いの王国」、そして女剣劇の大江美智子、浅香光代などが大成功を収めた名門劇場だったが、平成3年にとり壊された。その経緯を巡るごたごたを描いた芝居の中へ、突然、九州の女剣劇がなだれ込んできた、という設定だ。
にんげん座は、毎年、新春にシアターXで公演を行ってきた。ある日、劇団花月の演出を担当している林圭一さんが観に来た。にんげん座の芝居の台本を書いている飯田一雄さんは、このとき、林さんとは初対面だったが、すぐに今度の提携を決めたという。3年前のことだ。「一條洋子一座は見ていましたから」と飯田さんはこともなげに言う。このときすでに、飯田さんの頭の中には 「常磐座夢譚」の筋書きができていたのかもしれない。 林さんは、元、菊田一夫さんの弟子で、日劇から東宝へ、そして新宿コマ劇場で演出を担当してきたベテランである。 そのコマ劇場も今はない。
「劇団花月」は、座長の一條洋子、二代目座長の一條ゆかり、座長の娘の一条こまの三人が、それぞれ個性的で、人気を支えているように見える。立ち回りも颯爽のゆかり、14才のこまの可憐な色気、そして座長の豪快。
 女剣劇のもう一つの魅力は、言うまでもなく女性が男役を演じる独特な色気にある。男が女形をつとめる歌舞伎の逆だが、宝塚とも違う。ダイナミックな立ち回りが醸すのは、男の姿をした女の魅力なのか、女が演じる男の色気なのか。
 男役の洋子、ゆかり、まこの三人が、劇中で、女に扮するシーンがある。彼女たちは元へ戻って女を演(や)ればいいのだが、それが違うところが面白い。

写真 客席から贈られた1万円札数十枚の勲章を胸に踊る一條洋子座長。
2・3月は鬼怒川の「ホテル・ニューおおるり」で公演中。
TV朝日・Jチャンネルでも、紹介される。(2月13日(金))
写真小 演出の林圭一さん(左)と語る脚本の飯田一雄さん(シアターXカイにて)

オリンパス E-30 ズイコーデジタル 14-54ミリ

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