第83回 覚悟はいいか!
1月25日号
  昨年の漢字一文字は《変》であった。なるほどヘンな年だったな、と一人がってんしていたが、本当はchangeの意味だという。オバマ新大統領の選挙戦のキャッチフレーズでもあった。
 今年、2009年のキーワードはどうか。
いま本屋さんに、「覚悟」のタイトルが並んでいる。金本知憲『覚悟のすすめ』〈角川oneテーマ21)と五木寛之『人間の覚悟』(新潮新書)が、それぞれ20万部突破!という。なるほど、金融危機や雇用問題、イスラエルのガザ攻撃、あらゆる事象が《覚悟はいいか!》と迫ってきているように思われる。
全イニング連続出場の世界記録を更新中の阪神金本外野手は、「体も特別に頑強でもなく、才能も二軍なみ、小心者であがり症。巨人の桑田と同期だがドラフトでは4位」。そんな選手の全イニング出場記録のスタートは「休んだら二軍へ落とされる」恐怖からだったという。怪我をしても「怪我と言わなければ怪我ではない」と出場を続けた。しかし、成績が悪ければ同じこと。練習と全力プレーしかない。そして結論はこうだ。「いつ怪我をしてもいい。そういう《覚悟》がなければ思い切ったプレーをすることができない」。
五木さんは、《覚悟》は、諦める覚悟のことだという。「「諦める」は、「明らかに究める」ことだ。はっきりと現実を見すえる。期待感や不安などに目を曇らせることなく、事実を真正面から受け止めることである。」こう書かれると、妄想と優柔不断に生きる筆者などには鉄槌の一撃である。
 テレビでも《覚悟》に出会った。澤田浩日本製粉会長が、自身が乗り越えてきた経営の危機と苦難を振り返って「経営者は覚悟が必要」と心情を吐露する。(BSジャパン「ベンチャー必勝の法則」)。今年113周年を迎える伝統の会社の社長に就任したとき、会社は実質的に赤字だった。自らの報酬を削って、企業体質改善、今でいうリストラに取りかかったとき、阪神淡路大震災が襲ってきた。不眠不休の陣頭指揮が続いた。老朽化した工場の統廃合で12の工場を7つにしたが、人員カットはやらなかった。一挙にやればV字回復することはわかっていたが、「うちでは、するべきではない」と《覚悟》を決めた。
われわれ市井に生きるものにも、《覚悟》のない日はない。しかし筆者の場合、覚悟と言うより「えい、どうなってもいいや」という、《やけくそ》に近い。個人ならそれでもいいが、多くの社員やその家族を支える企業の場合はどうか。澤田さんは、《謙虚さ》だという。「危機に際して、かろうじて判断の誤りを避けることができたのは、謙虚に耳を傾けてあらゆる意見を聞いたことだと思う」と。
 英語には《覚悟》に当たる言葉はあるのだろうか。辞書で引くと、Resolutionと出てくるが、決意の意味が強い。オバマ新大統領の「yes we can」の方が、《覚悟》に近いかもしれない。

写真 澤田浩日本製粉会長(BSジャパン「ベンチャー必勝の法則」より)。
写真左 金本知憲『覚悟のすすめ』〈角川oneテーマ21)
写真右 五木寛之『人間の覚悟』(新潮新書)

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