第72回 「町のこし」で「町づくり」 愛知川図書館の試み
8月10日号
63年前の8月、悲惨なヒロシマ・ナガサキのあと、敗戦の焼け野原に立った先輩たちは、絶望の中にも、戦争が終わったという安堵と、新時代への希望を見たと思う。
半世紀後、いま、地方は、というより日本は、焼け野原を復興という名のコンクリートで固めたが、閉塞感が充満し、年寄りも若者も希望を見いだせない。政治家は、ガソリンや食料や、ライフラインが投機のおもちゃになっていることにはだれに遠慮か、頬かむり。
地方はダメだ、とだれもがいう。仕事がない。若者がいなくなって、人口が減る。年寄りばかり。街はシャッター通り。いくつもの地方自治体が限界集落となる日を、怖れているが手の打ちようがない。
 そんな日本に、年々人口も世帯数も増えている若々しい町がある。
東海道新幹線を米原で降り、近江線に乗り替える。しばらくは新幹線を追うように走る。30分で愛知川駅に着く。滋賀県愛知郡愛荘町は、愛知川町と秦荘町が合併した町だが、今年の7月末現在、人口20460人、世帯数6797世帯。2007年に較べて、人口で3.9%、世帯数で7.3%の増加である。若々しいというのは、25才から40才までの人口が約25%を占めていることだ。少子化問題もなさそうだ。
国道8号線添いに、中堅企業が集まっているという地の利も有るが、この町の特長は、町営の図書館が情報の集積基地となっていることではないかと思う。良質の本16万冊を収容、低く親しみやすい書架の間にパティオと称する書斎風の読書コーナーがあり、パティオは図書館の庭にもある、ということだけではない。立派なギャラリーを併設していることでもない。(実はこのギャラリーで筆者の写真展が開催されて、飾り付けに行ったのです。)図書館に入ってまず目に付くのは、「町のこし」のコーナーだ。町おこしではない。町の情報なら何でも、「蛍がいる池」や「まつりの情報」「水害の記憶」などが、町民たちの「町のこしカード」で登録される。世界遺産ではなく町遺産登録だ。「町のこし」こそ「町つくり」だと言うことだ。
 愛知川図書館は、利用率日本一(人口比)の情報基地である。昨年は「Library of The Year 2007」に選ばれた。開館は2000年。大分や長崎で情報の地域格差をなくそうという活動をつづけていた渡部幹雄さんが、初代館長として迎えられた。迎えたのは合併前の愛知川町長だ。渡部さんは図書館の立地から建築まで携わり、現町長の村西俊雄さんが全面的に支えている。
写真 書架の間の書斎風のパティオでは、若いカップルがデートのようだ。
(小1) パテイオは図書館の庭にもある。
(小2)写真を撮るなら野坂さんの写真の前がいい。と初代館長(今年4月より教育長)の渡部幹雄さん。右は学芸員の小川さん(併設のギャラリーで)。

オリンパス E−520 ズイコーレジタル12−60ミリ

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