第67回 物とことば からだと精神(こころ)
5月15日号
 かつて「ことば」は神聖なものでした。形あるものはいつかは崩れ、人間の肉体も「朝(あした)には紅顔あれど、夕べには白骨となれり」(蓮如上人)というほどにうつろい易いけれど、言葉すなわち精神には何ものにも犯されない真実が宿っていると考えられていました。聖書にも「初めに言葉ありき」(ヨハネ福音書)としるされていますし、日本でも昔から「武士に二言はない」などというではありませんか。
このところ、食品の品質虚偽表示や産地偽装の問題があとを断たず、最近では年老いて硬くなった「廃鶏」の肉を「秋田産比内鶏」と偽って表示した事件で、社長が逮捕されました。発覚までの1年間に1億1千万円を売り上げていたそうですから、相当多くの人が「廃鶏」とは気づかずに食べていたわけで、〈知らぬが仏〉と言うか〈信じる者は救われる〉と言うか。つまり表示の「ことば」を「真実」と思い、ゆめ疑わなかったわけです。自分の舌や感覚よりも「ことば」の方を信じるのは、人間が動物と違うところで、高級な生きもの証拠ともいえますが、感覚の衰えが激しい証拠ともいえますね。
 逮捕された元社長は「こんな零細企業をなんでいじめるのか」とぼやいていたそうですが、確かに比較にならないほどの巨大偽装表示が、堂々とまかり通っています。国会の内外で大騒ぎの「暫定」表示です。ガソリン税がいいかどうかは、語る立場でもなく資格もありませんが、「暫定」とは〈仮に〉とか〈一時的に〉の意味ですから、明らかに虚偽表示です。逮捕されないのはおかしい。さらに年金の「百年安心」も「三月までにすべて解決」も虚偽表示ですね。少なくとも誇大広告表現ですから取り締まって欲しい。
それに較べて、「後期高齢者医療保険」は実に正しいネーミングだと思います。「長寿医療保険」と改称するなどともいわれていますが、これでは偽装です。長寿を祝ってなどいないのだから、改称するなら「長寿禍」とすべきでしょう。長生きはわざわいだという制度ですから。
 75歳以上および65才以上の障害者はとかく医療費がかさむので、別枠にしてお金を倹約しようという企画だそうですが、それなら「メタボ」も別枠にしたらどうでしょうか。お腹のまわりが男性85センチ、女性90センチ以上の人は、別枠で「メタボリック医療保険」に、さらに糖尿病の人は「糖尿病者医療保険」も良いかも知れない。いずれも近いうちに医療費がかさみそうな人たちです。健康保険組合にメタボ検診を義務づけすることになりましたが、きっと別枠を考えているのでしょう。くわばらくわばらです。この国はいったいどうなっていくのか。
巣鴨のとげ抜き地蔵・高岩寺へ行ってきました。おばあさんの原宿などといわれていますが、けっこう若い人も多い。後期も中期も初期も、お年寄りはみな元気で、地蔵通りは押すなおすなの大にぎわいでした。老若男女、日本人はみな助け合って頑張りたいですね。

写真  4の日の縁日の賑わい。巣鴨地蔵通りにて。

オリンパス E−3 ズイコーレジタル12−60ミリ

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