第62回 餃子の復讐と警告
2月25日号
段ボール入り肉まんの場合は、テレビのヤラセと言われれば、ありそうなことだ、日本のテレビも前科がある、と騙されそうになりましたが、バラエティのバカバカしさが救いでもありました。が今度のメタミドホスは、ただ薄気味が悪い。
 第1に語感が悪い。怪獣の名前は、ゴジラにしろゴモラにしろ、何かしら愛嬌があるが、メタミドホスもジクロルボスもまるで可愛い気がなく、得体の知れない不気味さばかりの印象だ。ついでながら、問題の冷凍餃子のネーミングもひどい。「中華deごちそう ひとくち餃子」「CO・OP手作り餃子」。どこのコピーライターがつけたのか、旨いかまずいかよりも、品がない。
中国料理は、4千年の昔から世界を制覇してきた。馴れない外国で、体調を崩したときなど、日本食の店を探しても、ない。そんなとき、どんな町にも必ずある中華の店に駆け込めば、お粥などが食べられて助かったものです。もちろん体調の良いときは、美味しいから自然に足が向く。中国の食べ物には親しみもあり、むしろ尊敬する存在だった。
それなのに、です。
 こうなる兆候はすでにありました。昨年8月と9月に本欄で、料理人木澤保宏さんは、キクラゲの残留農薬、紅生姜の着色料などの不安を指摘していました。ということは、餃子ばかりが問題なのではない。メタミドホスは、ありとあらゆるところに潜んでいるらしい。実に不気味な奴め、というしかありません。
 昨年末には、ミシュランの格付け騒ぎがありましたが、中華料理がほとんど入っていないことを不思議に思われた方が多いのではないでしょうか。まさか今度の事件を予見したのか? 事情通にきくと、あくまでも噂の範囲だが、と断って「例の覆面調査員は、必ず厨房を覗いていくそうだ。そこに化学調味料のビンでもあれば星からはずすらしい」という。さすがに見識と言うべきでしょう。中華料理は、かって味の素症候群なる症状を起こして問題になったことがありました。
 中国には「無商不奸、無奸不商」という言葉があるそうです。悪人でない商売人はいない、悪智恵がなければ商売はできない、の意だそうです。耳が痛いのはむしろ日本人の方かも知れません。度重なる食品の偽装事件だけではない。日本の会社が中国の餃子を輸入する魂胆は、1にも2にもコスト、つまり人件費が安いからでしょう。また、中国には「便宜無好貨、好貨不便宜」という言葉もあるという。安物に良い品はない、よい品は安くない、ということ。(いずれも明治大学教授・加藤徹氏による)中国の人を安くこき使っていれば、いずれ報復されることを知るべきだったのです。
悪いことばかりではありません。この機に「身土不二」「地産地消」(身体と土は切り離せない。自分の住む土地から収穫したものを食べる)の意識が高まってきたようです。日本の食糧自給率はカロリーベースで39%というおそろしい数字です。一方、価格ベースで68%というデータは、いかに大量の安い食品を買っているか、の証拠でもあります。
餃子の復讐は、最後の厳しい警告だと思います。

写真上 万里の長城
写真下 北京の刀削麺の店で。
ミノルタ ディマージュ7

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