第61回 渡す人 彼から夫 今わたし 聖バレンタイン・チョコレート異聞
2月10日号
今年もチョコレートの季節がやってきました。2月14日は、あなたにとって楽しみな日ですか? それとも?
 聖バレンタインデーにチョコを贈る習慣は、70年前にモロゾフ(株)が始めたそうですが、「1年に1度、女性から愛を告白していい日」と言い出したのは、メリーチョコレートカムパニーの原邦生社長で、50年前のことだそうです。1958年、聖バレンタインデー・セールの企画を伊勢丹に持ち込んで見たものの、売れたのは50円のチョコがたったの3枚、計150円の売り上げだったとか。それから50年、バレンタインシーズンには83億円、年間の27%を売り上げるまでになったそうです。
(2005年の統計)
 その50周年の節目に、バレンタイン商戦たけなわの1月末、メリーチョコレート主催の記者懇談会が開かれました。その席上で、奇しくも建国50周年のガーナ共和国から、メリーの原社長に感謝状が贈られました。メリーが2006年からガーナの子供たちのために、図書館を寄贈していること、2008年にはHIVエイズの蔓延防止に力をかしていることへの感謝だそうです。ガーナは、カカオ豆の世界最大の生産地で、日本が輸入している55,600トンのうち70%近くをガーナが占めています。また、ダイアモンドや金の産出国でありながら、2001年に重債務貧困国として債務救済申請をおこなうなど、民衆の暮らしは貧しく、子供たちは1冊の教科書を2,3人で使うありさまだといいます。そのガーナも、昨年6月にはアフリカ最大の油田が発見され、近いうちに産油国として日本との立場が逆転するかも知れません。
さて、メリーチョコレートでは、「バレンタインどきどき、ワクワク川柳」を募集していますが、11回目の今年、3万2千通余の応募の中から選ばれた句を見ていると、聖バレンタインデーの50年が見えてくるような気がします。
 〈チョコ食べて 恋の思い出 老い二人〉
 50年前のドキドキ告白プレゼントのようすが浮かびます。しかし、すぐに義理チョコが出現しました。
〈「義理チョコ じゃないから!」 だけが精一杯〉
純情さも残っていました。が、
〈義理チョコで 釣れてしまった どうしよう?〉
ハッピーエンドならいいじゃありませんか。そして厳しい現実も。
 〈ギリなのに ウインクしてくる 課長さん〉
と女性がうたえば、
〈義理チョコと 分かって食べる ほろ苦さ〉
男はつらいよ、です。
最近の特長は、ほめてやりたい自分へのご褒美チョコだそうです。
〈渡す人 彼から夫 今わたし〉
今年の世相をぴたりとはめ込んだ悲哀にみちた句もあります。
〈年金も チョコも空しい 掛け捨てか〉

写真左 ガーナ共和国から感謝状を受けるメリーチョコレートカムパニー原邦生社長
写真中 生カカオの実
写真右 手作りの「マダム・セツコ」ブランド 2002年にパリのサロン・ド・ショコラで、準グランプリを受けた。
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