第56回 水の危機が迫っている 牛丼1杯に2000リトルの水
11月25日号
 インド洋での自衛隊の給油については、国を2分する騒がしさですが、連日のニュースを聞いて、うっかり聞き逃していたことがあります。初期のコメントでは、たしか「給油と給水」だったと思うのですが。ガソリンの値上げに気をとられて、〈水〉については耳を素通りしてしまった、ということでしょうか。油は米軍から買っているらしい。が、水はどこで仕入れているのいるか? 気になります。
   まず油です。バカげた高騰の原因は、アメリカ発の金融危機で、株から逃げたファンドマネーが、石油の先もの買いに集中した結果だそうです。しかし、これで終わりじゃないらしい。オイルが高くなったので、バイオエタノールとやらが脚光を浴びてきた。その原料のトウモロコシの価格が急騰し、品物が消えた。ファンドの買い占めで、日本は家畜の餌が輸入できなくなるといいます。すると牛肉も小麦粉も値上げです。とんでもない迷惑な話ですね。
   ファンドが次に狙うのは、水です。いや、もう手遅れかも知れません。WHOの調査では、飲める水を利用できるのは全人口の80%、途上国では60‐70%だが、2025年には、地球上の3分の2が水不足の危機に陥るといいます。
  いままででも、アメリカの家庭では大きなペットボトルの水を飲んでいます。文明国のはずなのに水道の水も飲めないのか? と不思議に思ったものです。いま、水不足の国は中国、インド、中東、アフリカ、そしてアメリカだそうです。水商売の大手はペプシとコカコーラ、ネスレ、ペリエなど。インドでは、コカコーラ社の工場が大量の地下水を汲み上げ、近隣の井戸が干上がり、生活用水が失われた。畑も荒れ果ててしまった。同様なことは、本家のアメリカでも起こっています。
  「日本人は、水と安全はタダだと思っている」。この有名な言葉は、1970年の「日本人とユダヤ人」の中の語録ですが、いま、日本人で安全がタダだと思っている人はわずかでしょう。水も、もはやタダではない。東京でも大阪でも50%近くが浄水器を使っています。ペットボトルの水も売れています。〈民間に出来ることは民間に〉の合言葉で、すでに広島・三次市や福岡・大牟田市で水道事業の民営化が始まっています。間もなく地元の名水も買い占められて、庶民には飲めない水になるのでしょうか。
  いま六本木のミッドタウンの21‐21で「water」展が開かれています。
 ディレクターの佐藤卓さんは、「文化人類学者・竹村真一さん(コンセプト・スーパーバイザー)から聞いた牛丼の話し」から、水に興味を持ったといいます。一杯の牛丼にどれだけの水が使われているか? 牛が飲む水、餌を育てる水、米を作る水。実に一杯あたり2000リットルを使うとは、驚きです。「牛肉を輸入するということは、水資源を他国に頼るということ(佐藤卓さん)」。ちなみに、ハンバーガーは1,000リットル。ざるそばは700リットルの水が必要だそうです。
   Water展は、水に親しんでもらうねらいがあったそうですが、デザインがアートよりもリアルに現実とのクロスをめざすなら、もっと強いアピールが欲しかったという気もします。
 

写真(上)21_21「water」展会場 シンボルマークは「雨水利用を呼びかけるマークでもある(佐藤卓)」
  (下右)水球儀(竹村真一) (下左)ふるまい(takram=田川欣哉、畑中元秀、渡邊康太郎)

オリンパスE‐330 ズイコーデジタル14‐52ミリ 

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