第49回 料理人木澤保宏語る 中国人は何でも食う?
8月10日号
中国は誰もが認める食の王国です。フレンチもイタリアンも中華4000年の歴史には1目置かざるをえない。世界中どこへ行っても、ちょっとした小都市なら必ずチャイニーズ・レストランがある。逆に言えば中華料理店もないような町は、よほどの田舎ということになる。
  中国人は何でも食べる。足のあるものなら机以外はすべて食べる、という。フカのひれやツバメの巣など、食材とは思いつかないものを料理する。その想像を絶する追求心には、ただただ敬服するのみです。しかし、段ボールを食うとは知らなかった。
   北京には各国の大使館などがあり、アメリカ人、イギリス人など味オンチの国の人も多く住んでいる。彼らの好物はハンバーグとか肉マンです。段ボール入りを主に食っていたのは彼らですよ。こんなことが世界中に報道された以上、何とかしなければ北京オリンピックのボイコット運動など起こりかねない。
  そこで中国政府は、TV局の下請けの番組製作のヤラセだったと発表した。やれやれ、これにて段ボール事件は落着、のように見えるが、当の中国人をはじめ、世界中でヤラセを信じるものは一人もいない。誰もが、日本の関西テレビの「あるある・・・」事件を逆ヒントにして、ヤラセのヤラセを仕組んだ、と思っている。下請けの若いのを捕まえて、ほうむってしまえということだな、と。
   東京・渋谷、道玄坂小路の台湾料理の老舗「麗郷」の料理人、木澤保宏さんは、以前から中華に限らず世界中の食材の危機を感じてきた。かつてパリの店でエビを調理しているときだ。何かおかしい、このいやな違和感はなんだろう? 気づけば、背わたが白いではないか。ご存じのようにエビの背には黒い背わたが走っていて、これはエビの腸だから、黒い。料理人は、あの大きく重い中華包丁を使ってこれを取るのだが、その黒が、白い。また、地鶏をさばいていると、食道に鮮やかなキイロやミドリが残っている。地鶏は地面をつついてミミズなど食っているはずなのに、抗生物質などのカプセルか何かを土にまいているらしい。ぞっとして、しばらくは料理にストレスを感じましたよ。
   最近では、中国産のショウガのガリと木クラゲです。ガリは中華ではピータンの臭みを取るために合わせます。寿司屋もほとんど中国のものを使っている。その着色料が問題です。木クラゲは食物繊維が多く、貴重な食材ですが、残留農薬を無視できない。もう、世の中の悪意を感じるね。
   しかし、料理人木澤は、中国料理を芯から愛している。中国人は何でも食うが、最近のヒットは百合の花のつぼみ。花開く前の小百合だね。炒めるとちょっと苦味があって繊細な日本人の口に合う。料理しながら、小百合ちゃんの1番いい時を、ごめんね、ってつい言っちゃうんですよ。(笑)もやしも、いい状態の時はジュワッといい音が出る。
  中華は、火が強いから料理に覚悟がいる。火炎放射機を持った料理の神様を相手にしているんです。体調の良い時じゃないと勝負になりません。
  料理人・木澤保宏の話は驚きの連続です。次回は木澤さん自身についての聞き書きです。
 

写真 中国人は何でも食べる。百合の花咲く寸前を採って炒めると少し苦味があって美味しい。
オリンパスE−410 ズイコーデジタル14−42ミリ  

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