第39回 驚きのインド-2  頭脳立国・インドの格差
2月25日号
インドは驚きの連続だ。街の商店で19ルピーの商品を18個くださいといえば、店のおじさんは計算器も使わずに「へい342ルピーいただきます」というんだそうである。2桁の暗算を即座にやってのける。子供のころから2桁の九九(19X19)を覚えるらしい。
 それどころの話しではない。いまやインドの頭脳なくしてITの世界は成り立たないといわれる。1月末に売り出されたマイクロソフトの新しいOS、ウインドウズ・ビスタを完成させたのは、インドのIT企業のINFOSYSだという。この平均年齢27才の若い企業の昨年の売り上げは3600億円に達した。
 21世紀にもっとも成長する国として、BRICs のなかでもインドは年率8%の成長、2032年には日本を抜き、2047年にはアメリカに並ぶんだそうである。そのころ世界、とりわけアメリカがどうなっているかは分からないが。
 インド独立後、初代首相ネルーは、貧乏なインドは設備のいらない数学や化学を中心に頭脳立国を目指すしかないと考え、インド工科大学(IIT)を作った。
1951年、独立して5年後のことだ。教室はイギリス時代の刑務所のあとを利用した。IITは、学生2600人。学費は年間7万円だという。INFOSYSなどのIT企業の躍進を支えているのがIITの卒業者である。
インドの人口11億、しかも25歳以下が5億といえば、まさに世界じゅうの企業にとって垂涎の市場ということになる。しかし・・・、
 インドはまだ識字率60%、世界一のエイズ国(2位は南アフリカ)、ムンバイのスラムでは1日1ドルで暮らす人が50%、エアコンの普及率はわずか2%。そしていまなおカースト制から抜けられない。
祭司のバラモン、政治と軍事を担当するクシャトリア、商業などの平民ビアィシャ、奴隷のシュードラ。その下の非可触民。日本でもかって士農工商非人という身分制度があったが、インドはいまなお、下級の百姓のカーストの下にさらに最下級の野ネズミを捕るカーストがあるという、究極の格差社会なのだ。
 格差といえば、経営者と社員(派遣・パートは別)の給料の差が日本は12倍だがアメリカでは480倍だそうである。インドはどれくらいか知らないが、歴代の政府がカースト制をなくすために努力を重ねていることは確かである。日本がアメリカを真似て格差を進めているのは不思議というしかない。インド人もびっくりだろう。また、日本はいま教育改革だそうだが、ネルーが抱いたような、どんな理想と深い思索があるのかないのか?
 インドに学ぶことは多い。

写真 カルカッタにて。かってスポーツの国際的なイベントがあったとき、カルカッタでは非可触民の路上生活者をトラックに積んでゴラン高原に捨てに行ったそうだ。しかし1週間後、彼らはどんな方法でか戻ってきて、快活に物乞いをしていたという。
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